帰りにセブンに寄るぐらいしかないんだけど
寿ハチミツ
第12話
暴れ犬モティ
 昨年、実家のアイドル・柴犬パスが死に、犬以外に面白い事がひとつもなかった実家は悲しみに暮れていた。面白くない上に悲しいなんて最悪だと思う。家族会議の結果、悩みながらも子犬を迎えることにした。

 半年後、実家に柴犬の子犬モティがやってきた。小さな身体で「飯が足りない」と茶碗を咥えてぶん回し、仁王立ちで脱糞する勇ましい姿が家族LINEに送られてきて脳が追い付かなかった。先代パスはおとなしく食も細かったため、柴犬はみんなそうだと思い込んでいた。
 何はともあれ、生命力を惜しみなく爆発させた子犬の登場により、面白い事がひとつもない実家にも明かりが灯った。

 パスが静かすぎて子犬の(しつけ)に苦労した経験が無い実家は、てんやわんやだった。モティは赤ん坊のくせに叱られると鳴いて言い返してくる気の強さを持ち、頻繁に二足歩行になる。
 トイレシートに逆立ちで放尿するモティ。わんこそばの要領で新しいシートに交換しないと、まだシートに染み込み切らない尿へダイブする。身体を拭こうと抱き上げると、母の腕を発射台にして飛び上がり、フローリングの上をドリフトしながら走り去る。年老いた母がウェットティッシュ片手にモティを追いかけ回す日々が続いた。

 また、実家は地震で半壊し、壁に稲妻のようなヒビが入っているが、トドメを刺すようにモティが柱を噛んで破壊行為に没頭していた。床に散らばる木片に気付いた兄が現行犯を叱りつけると、モティは反抗心に震え、兄の部屋に駆け込んで復讐の脱糞をキメた。
 そのエネルギーを外に向けてほしい一心で迎えたお散歩デビューの日。モティは生まれて初めて聴いた消防車のサイレンにビビり過ぎて2本足で立ち上がり、そのまま仰向けにバンザイの状態で倒れ、動かなくなってしまった。これで大人しくなるかと思いきや、兄が抱き上げるとイキりが復活し、流れるように腕を噛んだ。

 みんなモティに目尻を下げつつも、母と兄の身体と家は噛み跡だらけだった。そこで、泣き虫の姪(小5)が立ち上がった。臆病な姪は、お地蔵さんとすり替えても気付かれないくらい穏やかなパスであっても“Mサイズの犬”というだけで怖がってあまり近付かなかったのだが、天国のパスが背中を押してくれたのか、「私がモティのお母さんになる」と宣言した。

 連休の最終日に宿題があると思い出しただけで泣いていた姪が、モティに大砲のように飛び掛かられても泣かなかった。仕事に行く兄を引き留め「パパがいないと生きていけない」と泣いていた姪が、噛みまくるモティを毅然と叱り続けた。3か月間、姪が挫けずにマンツーマンで躾してくれた結果、モティは一切噛まなくなり、姪にベッタリついて歩くようになった。

 モティはまだ生後7か月。耳は垂れたままなのに、モリモリ食べて生前のパスの体重を越してしまった。毎朝「散歩! 飯!」と鳴くモティに叩き起こされ、誰も泣いてる暇がない。
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