帰りにセブンに寄るぐらいしかないんだけど
寿ハチミツ
第11話
マンホール踏みの友情
 知人男性が「めちゃくちゃ話し掛けてくる女子がいて、自分に気があるのかと思ったけど、その子は喋ったこともない先輩のことが好きだった」と少年時代の話をしていて、わたしは強く頷いた。

 小学3年生のとき、一番仲の良い友達が太一だった。太一はいつもジャイアンツのキャップを斜めに被っていて、昆虫に詳しく、バス釣りが上手かった。わたしは毎日、飽きることなく太一と山や川へ冒険に出掛けていたので、お互いの親も担任の先生も、わたしたちをニコイチで認識していた。

 そんなわたしたちが学校で夢中になっていたのが『マンホール踏み』だった。『マンホール踏み』とは『缶蹴り』のルールで、缶を蹴る代わりにマンホールを踏むオリジナルの遊びだ。昼休みには、男女10人ほどで昇降口のマンホールに群がった。

 わたしと太一は、闇雲にマンホールを踏みに行かず、“いかに鬼を出し抜くか”に心血を注ぐ、実に嫌なプレイヤーだった。どちらかが(おとり)になって特攻を仕掛けた隙に、もう一人が鬼の背後からマンホールを狙う方法で鬼狩りを楽しんでいた。

 しかし、戦法がバレてしまえば同じ手は通用しない。物陰に隠れてタイミングを図っている間に、わたしと太一以外はみんな捕虜になってしまった。追い込まれて苦し紛れにひらめいたのが、『服を交換して鬼を混乱させよう作戦』。鬼は見つけた子の名前を呼ばなくてはならないので、名前を間違えさせて無効に持ち込む、スポーツマンシップの欠片もない戦術を編み出した。

 ショートカットで男児と間違われまくっていたわたしは、太一と背格好も同じくらいだった。その日はオレンジ色のワンピースを着ていたが、太一は勝利のため、豪快にワンピースに袖を通した。わたしも太一のナイキのTシャツと、いつものジャイアンツのキャップを身に着け、先に飛び出した。

 「太一くん、見っけ!」
 まんまと引っかかった気の毒な鬼が、男装したわたしに気付いてあっけにとられていると、捕虜たちがワッと歓声を上げた。スポーツ刈りにワンピース着用の太一がマンホールにスライディングする姿に、全員が爆笑した。
 卑怯過ぎてこの作戦は禁止されたけど、その翌月に遠くへ転校した太一との、最後の思い出になった。

 それから7年後。高校生になったわたしの元に太一から手紙が届き、携帯番号を交換した。声変わりした太一との電話に最初は緊張していたけど、すぐに思い出話で盛り上がった。そして、お互いの空気が温まってきたところで、太一が静かに切り出した。

 「あの頃さ、俺たちいつもふたりでいたじゃん」
 「そうだね」
 「だから、みんなから『太一くんハチミツちゃんが好きなんでしょ』って言われてたんだよね」
 「うん」
 「…俺さ、」
 「…」
 「…ミキちゃんが好きだったんだよね」
 「………え?」

 ミキちゃんって、小学生から茶髪に染めてた、あの超ヤンキーの? わたしたちのマンホール踏みを「シャバい」と言って参加してくれなかった、あのミキちゃん? 触れるもの皆傷付けて、学校中から恐れられていた、あのミキちゃん?? 太一と喋ってるところ見たことないけど…。
 「ハチミツ、連絡先知らない?」
 「ごめん、知らない…」

 告白されると勘違いした自分がめちゃくちゃ恥ずかしかった。謎に期待し、謎に振られてしまったショックで、その後の会話は覚えていない。ちなみにミキちゃんが中卒で既に一児の母であることは、太一には言わなかった。それがわたしなりの友情だ。
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