帰りにセブンに寄るぐらいしかないんだけど
寿ハチミツ
第6話
マッチングアプリのひと
 数年前、結婚しようと思い立ちマッチングアプリに登録した。結論から言うと結婚は出来なかったけど、普通に生きてたら出会えなかった別世界の人種を知ることができた。

 25歳の爽やか大学院生。中学から途切れず彼女はいるのに脱童貞したのは23歳で、セックスが怖くて既にHIV検査を3回受けているという。会った瞬間「美人局とか嫌だし身分証見せてよ」と言われて混乱した。
 36歳の体育会系サラリーマン。転職のために勉強中という彼は、夢に真っ直ぐな明るい人だった。「お忙しいなか会って頂いたのに、わたしったらお喋り野郎ですみません」と別れ際に言うと態度が急変し、「女が『野郎』とか言うな」とガチギレされて怖かった。 
 初めて仲良くなったのが30歳の介護士で、面白くて良い人だった。その人とは付き合うかもな~と思っていたけど、お泊りしたときに「痴漢に触られてもこういう声出すの?」と無邪気に聞かれてめちゃくちゃビックリした。

 そしてついに、30歳の建築士の彼氏ができた。彼は「忙しくて一カ月に一度しか会えない」という、他に女がいるとしか思えない人だった。しかし、わたしからお金を盗む彼氏と別れた直後だったこともあり、「仕事が忙しいなんて立派な人だ」と自分に暗示をかけてしまった。

 彼は意識の高い人だけが住み、夜な夜な意識の高い人だけのパーティーが開かれるシェアハウスに住んでいて、意識が高くないわたしが遊びに行くと、誰もいない裏口玄関から部屋に通された。廊下ですれ違った何人かに挨拶したが、全員から無視されたので、意識の高い人はわたしのような者が透明に見えるらしい。
 月に一度しか会わないけど旅行には行った。わたしがお土産を選んでいるときに彼から「どれが美味しそうだと思う?」と相談されたので「シェアハウスのみんなにあげるの?」と聞くと「ううん、ちょっと…。」と呟き、スマホを持ってトイレに行った。
 (あっ、女だ。)わたしは直感したが、旅先で修羅場ぶちかます勇気がなくて、気付かないフリをしてしまった。彼はわたしが薦めたお土産を、わたしに隠れてギフト包装して貰っていた。そしてその半年後、オンラインサロン経営の女性と結婚した。

 次に、33歳の某IT会社プロデューサーの彼氏ができた。彼は「男友達とルームシェアしているから家には呼べない」という、結婚しているとしか思えない人だった。「奥さんと住んでるの?」と聞くと、慌てて毎日機嫌を取りに来た。今思えば図星だったからに違いないが、わたしは再び「あんまり疑ったら失礼だ」と自分に暗示をかけてしまった。

 キャンプが趣味の彼は、友達と行ったときの集合写真を見せてくれたので「わたしもその写真欲しいからちょうだい」と言うと「うん、ちょっと…。」と呟き、スマホを持ってトイレに行った。セカンド女が都合の悪いことを言ってきたら「ちょっと…。」と濁すのが、意識高い系のルールらしい。写真は貰えなかった。
 それから間もなく、(真実はさておき)彼は沖縄へ転勤になった。たまに沖縄土産を持って現れるものの、幽霊と付き合ってるのか?というくらい実態が掴めないまま、一年近く経っていた。「わたし、君の家も知らないし、今どこにいるのかも分かんないんだけど」と連絡するとLINEブロックされた。鮮やかな手口で、彼は煙のように消えた。

 今は全部笑えるけど、あと一回でも「ちょっと…。」って言われたら人間不信で頭がイカれそうなので、マッチングアプリは二度とやらない。
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