帰りにセブンに寄るぐらいしかないんだけど
寿ハチミツ
第5話
ギャルの教え
 小学校の卒業文集でクラスの紹介漫画を描いた。
 それを見たであろう殺伐とした男子から「お前、漫画の絵とか描いてんのキモオタじゃん」と言われてヒヤッとした。下手に材料を与えて、進学先でいじめられてはたまったものじゃない。その日以来、絵を描くことは人に隠していた。

 それから3年後、わたしは女子校へ進学し、隣の席のギャル・ユウちゃんと毎日退屈な日々を過ごしていた。ユウちゃんは茶髪で長身の元バスケ部。初めて出会った日、ライターの火で炙った安全ピンを自分の耳にぶっ刺して、誰もいない教室で7個目のピアスを開けている、気合いの入ったギャルだった。
 わたしとユウちゃんは一見すると陰と陽、地味と派手であったけど、バカ過ぎて授業中に何もすることが無いという共通の悩みがあった。そこで、お互いにオススメの漫画を持って来て時間を潰すことにした。

 わたしがコンサル気分で無難に『スラムダンク』を持って登校すると、なんとユウちゃんはボロボロに読み潰した『ハーメルンのバイオリン弾き』を取り出した。
 『ハーメルンのバイオリン弾き』とは、90年代に少年ガンガンで人気を博したファンタジー漫画で、めちゃくちゃ面白いけど絵のクセがすごい。漫画を読まない若者も多かったあの時代に“ハーメルン推しのギャル”は日本に一人だったと思う。
 次にユウちゃんが持って来たのは『人形草紙あやつり左近』だった。小畑健先生作画の漫画といえば『ヒカルの碁』の時代に、グロめのサスペンス漫画を持って来たギャル。

 『女子高生』『MONSTER』『銀河鉄道999』その後もユウちゃんが持って来る漫画の法則性の無さに圧倒された。わたしはユウちゃんから教わることはあっても、教えることはひとつも無い。コンサルなど思い上がった考えだった。

 せっかくユウちゃんと意気投合したのも束の間、授業中に漫画を読んでいることが先生にバレて、再びする事がなくなってしまった。しかし、わたしとユウちゃんの漫画に対するパッションは極限まで高まっており、興奮したユウちゃんから「自分たちで漫画の絵を描こう」と提案された。
 ハーメルンを紹介された日からわたしのギャルの定義は崩壊しつつあったが、ますます加速した。しかも、いざユウちゃんが描いたハガレンの主人公エドの絵を見せて貰うと、『スレイヤーズ』みたいな個性的で味がある上手い絵だった。意味が分からなかったけど、わたしはギャルとお絵描き友達になった。

 ある日、美術で石膏像のデッサン授業中、同じ班の子が描いた絵をユウちゃんが「鵜堂刃衛に似てるな」と言った。ギャル率高めの教室で急に『るろうに剣心』の敵の名前を言うので、わたしだけが一日中笑い続けた。でも、おそらくその日から“漫画好き”な子たちがわたし達に話し掛けてくれるようになったと思う。
 いつの間にかわたし達のお絵描き交換ノートはクラスメイト達全員に知れ渡り、毎日誰かから「見せて」と言われるようになった。クラスが離れた後も二人で交換ノートを続け、卒業までに5冊分の絵を描いた。わたしはユウちゃんに出会ってから、絵を描くことを人に隠していない。
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