帰りにセブンに寄るぐらいしかないんだけど
寿ハチミツ
第3話
死なない伯父さん
 「親戚の伯父さんがそろそろ死ぬ」と聞き、死なないまま3年経った。末期がんだけど80近いから今死んでも寿命と言える。
 色々とめちゃくちゃだった伯父さんがもし令和生まれだったら、おそらくパワハラで監獄にぶち込まれていたと思う。伯父さんはがんで死ねてラッキーだ。いや、まだ死んでないんだけど。

 伯父さんは信じられないくらい早口で訛ってるから、何て言ってるのか全然分からなかった。何となく雰囲気で「冗談を言っているんだろうな」と伝わるので、こっちが笑っていると満足して去っていく。

 そして3歳までの子守が抜群に上手かった伯父さんは1歳のわたしに、
 「テンコテンコ」と唱えると両手を振り、
 「カーボカーボ」と唱えると首を振り、
 「ゴンゴン」と唱えると壁に頭を打ちつけるよう訓練していた。
 それまで微笑ましく眺めていた伯母さんが「ゴンゴン」で血相を変えてブチ切れ、これらの呪文は封印された。ちなみに4歳になると子供が伯父さんの知能を追い越してしまい、親交は自然と終わりを迎える。

 飼っていたシベリアンハスキー3頭からも若干なめられていて、伯父さんが張り替えたばかりの網戸を犬たちは次々に突き破った。犬に怒り狂い、犬めがけてサンダルを投げるも全て避けられ、犬を追って転び、骨折し、また怒り狂い、翌朝には忘れていた。

 そんなギリギリの人間がこれまでどうやって生きてきたのかというと、信じられないくらい足が速かった伯父さんはそれを活かした仕事に就き、レジェンドと呼ばれていた。
 「ハイライト吸ってあんなに走れる人はいない」と尊敬を集め、後にスキーのストックで部下のケツを突きまくる悪の指導者になったものの、陽気な性格のおかげで奇跡的に愛されながら定年を迎えたのだった。

 3年前、最期のつもりで母と姉夫婦の4人でお見舞いに行くと、薬が異常に効いた伯父さんはすこぶる元気になっていた。
 「俺は子供のとき隣の家の柿の木から実を全部盗み、学校の先生から『自分の家にも柿の木があるのに何故盗むのですか』と叱られ、『人のものが欲しくなるんだ』と答えたんだ」というような話を強い訛りで話し、義兄はちんぷんかんぷんで、こんなしょうもない事を母が訳すことになった。

 先日、伯父さんは二度目の余命宣告を受けた。時世的に葬式に帰れないかもしれないな、と思ったけど、棺桶の中にいる伯父さんを見ずに済むならそうしたい。いや、まだ死んでないんだけど。
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