帰りにセブンに寄るぐらいしかないんだけど
寿ハチミツ
第24話
遅刻魔からの卒業
 わたしは女子高時代、とんでもない遅刻魔だった。夜更かしで朝起きられず、昼過ぎに登校…なんてことはざらにあった。

 放課後17時から22時までパン屋でバイトし、帰宅すると23時近い。そこから女子高生のライフワークだったメールを打ち、大好きなV6の出演番組の録画を繰り返し観て過ごしている内に、気が付けば深夜2時になってしまう。わたしは(よし、明日は寝坊しよう)と決めてから就寝していた。

 朝、決まって担任の先生からの電話で起こされ、「この電話を切ったら着替えること、くれぐれも二度寝しないこと」を約束させられた。わたしは迷わず二度寝し、5時間目に登校した。帰りのホームルームで、先生はわたしがいることに喜び、わたしを褒め、出席簿を確認し、怒り、わたしを叱った。

 そんな、自堕落な日々を送っていた2年生の秋。その日も、いつものように遅刻して学校へ向かっていた。お墓の脇道を通っていると、いきなり進行方向を車にふさがれた。
 通学時間は高校生でにぎわうこの道も、今はわたし1人しかいない。とても嫌な感じがした。すると運転席の窓が開き、30歳ぐらいの男が笑顔で話しかけてきた。

 「〇〇駅はどう行けば良いでしょうか?」
 車で5分の距離にある駅だ。そもそも、ここは地元の人間しか通らない道なので、この男も地元民のはず。最寄り駅を知らないのは不自然極まりない。
 「Uターンすれば大通りに出ますから」道をふさがれているので仕方なく答えると、「出来れば助手席に乗って案内して欲しいのですが、無理ですか?」と言ってきた。よく見ると、男は上半身Tシャツ、下半身は丸出しだった。

 「学校があるので…」いなくなってくれと念じながら言うと、男は「そうですよね。すみませんでした」と言って会釈し、車をUターンさせ、走り去っていった。この日、遅刻をし続けてきたことを後悔したわたしは、心を入れ替え授業中に眠る決心をした。

 3年生になると、わたしは枕とブランケットを学校へ持ち込み、本格的に眠るようになっていた。当時はとにかく眠気に勝てなかったのだ。
 夏のある日、台風が来た。地元は滅多に台風が来ないため、精神年齢が小学生のわたしは大興奮していた。多くの電車やバスが運休になり、学校からも「無理に登校しなくていい」と知らせがあった。普段、雨や雪が降っただけで学校へ行く気が失せるというのに、わたしは朝イチで学校に到着していた。

 なんと生徒の半数近くが登校できず、授業は自習になった。即座にみんな机に突っ伏して眠り始めた。天気も悪く、生徒も少なく、教科書を開く気にならないのも当然だと思う。ところが、絶好の非日常を体感したかったわたしは、この日に限って唯一マジメに自習に取り組んでいた。
 すると、テストの採点をしていた先生が運悪く顔を上げ、眠りこける生徒たちを目の当たりにしてしまった。教室に特大の雷が落ちた。

 「お前ら、気持ちは分かるけどな、せっかく登校したのに勿体ないと思わないのか! 見ろ、ハチミツを…1人で勉強してたんだぞ! みんな見習え!」
 やめてくれ先生。おそるおそる周囲を見渡すと、クラスのみんなは完全にしらけていた。そりゃそうだろう。学校に枕を持って来てるようなやつを見習いたい訳がない。なんだか先生にもみんなにも申し訳ない気持ちになり、その日の放課後、わたしは枕を家に持って帰った。

 そんなこんなで、多くの先生方に心配されながらなんとか卒業したわたしだけど、不思議と仕事では遅刻をしたことがない。お金が貰えるなら、眠気も吹っ飛ぶらしい。
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