帰りにセブンに寄るぐらいしかないんだけど
寿ハチミツ
第1話
バットマン
 わたしが通ってた中学は地元で最も治安が悪かった。
 どれぐらい悪いかと言うと校舎の床も窓も唾とガムだらけで昇降口のガラス扉は常に割れ、週に一度のペースでヤンキーが廊下に消火器をぶちまけている、まさに昔のヤンキー漫画を地で行くような学校だったのだ。

 そんな中学で当時地味だったわたしにも男友達が出来た。彼は金髪に白タンクトップ、白ボンタンで学校に来ているというこれまたとんでもないどヤンキー。ちなみにこの格好、当時若者に人気だったドラマ『池袋ウエストゲートパーク』のKINGこと窪塚の影響を強めに受けている。

 「マガジン系の漫画好き」という共通点があり、彼と友達になったものの常に若干引いていた。ある時から「付き合って欲しい」と頻繁に言われるようになり、更に若干引きつつも他に友達がいないわたしは追いつめられ、彼と付き合うことにした。

 彼と付き合って驚いた事は沢山あった。
 まず彼はファミレスでひたすらライチだけを食べ続け、テーブルの上に一枚だけ敷いたうっすい紙ナプキンの上に大量のライチの皮を捨てていき、そのテーブルの上のライチの皮と汁でびっしゃびしゃになったゴミを、なんと「片付けて」と店員に顎で命令した。
 「せめて皿の上に捨てろや!」と勿論思ったけど、中学生のわたしは今までの人生で見たこともない横柄さに引きすぎてその後ずっと黙り込んでしまった。

 そして、彼は坊ちゃんヤンキーだった。
 彼のヤンキーなんだけど真っ直ぐなヤンキーとも言い切れない「変な感じ」は、ものすごいお金持ちだったからだと思う。借りていた『サイコメトラーEIJI』を返しに行った時に分かったけど、彼の家は『金田一少年の事件簿』に出て来るものすごくデカい洋館のような家で、おそるおそる彼の部屋のドアを開けたら、なんと部屋の中にもう一個部屋があった。言葉で説明すると意味が分からないと思うけど、とにかく部屋の中にもう一個部屋がある。なんか天井が低くてブラックライトに煌々と照らされた怪しい部屋が…。

 その部屋の中の部屋に「一緒に入ろう」と執拗に迫られるのが嫌すぎて、どうにか断って外へ飛び出した。これが決定打となり、当時の中学生なりの知恵を振り絞って「イノッチ(V6)の誕生日は一人で過ごしたいから別れたい」という半ば強引な言い訳で何とか別れることに成功した。

 そして時は流れ20歳ぐらいの時。
 当時のSNSで「昔の恋人をネットで検索してみよう」というブームが一瞬起こって、「そういえば彼はどうしてるんだろう?」とわたしも妙に気になって検索してみた。
 すると「押入れからバットマン ○○○○(彼の名前)」という怪しいブログが出てきた。
 押入れ…?
 バット…??
 確かに部屋の中に部屋はあったけど、押入れには全然心当たりがない。
 あの部屋もさすがに押入れにはカウントされないと思うし。
 まさかアレ、納戸だったとか…?

 で、よくよく読んでみたら元のニュース記事があって、どうやら彼は地元でホストか何かの仕事をしていて、しかも会社の同僚に相当な恨みを持っていたようだった。そしてある日、ついにその同僚の留守中に家に侵入してしまったらしい。金属バットを持って。
 同僚を部屋で待ち伏せして、下手すると「殺してやる」ぐらいの気持ちだったのかもしれないけど、運の悪いことに同僚が大量の友達を連れて帰ってきてしまった。

 最悪な事にそのまま家で飲み会が始まってしまい、あまりに予想外の展開に彼はとっさに狭い押入れに隠れ、そのまま逃げるわけにも襲いかかるわけにもいかず、押入れで数時間過ごしているうちに結局見つかって取り押さえられ、ついに逮捕されてしまったという話だった。
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