断章のグリム 特別企画

甲田学人×松坂ユタカ

(原作) (漫画)

スペシャル対談「断章のグリム」を語る 「断章のグリム」がいかにして世の中に登場し、いかにしてマンガ化することになったのか?
参加者 甲田学人

1977年岡山県出身。『断章のグリム』原作者。最新刊『霊感少女は箱の中』が2017年1月に刊行予定。

松坂ユタカ

四国出身。『断章のグリム』のコミック版を連載中。この作品が初めての連載作品となる。

和田編集長

電撃文庫編集長。『Missing』『断章のグリム』『ノロワレ』と、長きにわたって甲田学人作品を担当。

コミック担当

『断章のグリム』コミック版の担当編集者。

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「断章のグリム」の原型は「そのうちにやる企画のメモ」の中にあった!?

松坂 『Missing』※1のあとに『断章のグリム』がスタートするわけですが、作品の構想はいつぐらいからお持ちだったんでしょうか。
甲田 『グリム』自体は『Missing』が終わる前に、「そのうちにやる企画のメモ」の中に入っていました。終わる段になって「じゃあ次は何を書くのか決めなくちゃいけないね」となった際、そのメモの中から一番やりたいものとして選んで、具体的な形にしていきました。『Missing』自体がオカルト的な話のごった煮で、その中にも“象徴”という話はいくつか入り込んでいました。これだけを取り出してひとつのシリーズにできるんじゃないかというのが、そもそものアイデアですね。
松坂 実際にアイデアがあったとしても、童話の中のキーワードを探し出してそれがどういう“象徴”なのかを調べ、さらにそこから話を作り出していくというのは大変な作業だと思うのですが…。
甲田 個人的には、何も無いところから作るよりは楽なんじゃないかなぁという気はするんですけど。
コミック担当 当時だと、今と比べてインターネットがそれほど活用できる状況ではなかったと思いますので、相当な調査が必要だったんではないでしょうか。もともと知識としてお持ちだったとしても、多方面に探りながらの作業は大変なものですよね。
甲田 それでもゼロよりは楽だと思います。「この童話を使おう」と思ったらイメージを膨らませたり、初版の内容が最新のものと違うなら初版の話から持ってこようなど決めていくんです。印象的なキーワードを全部抜き出し、象徴辞典でどんな象徴があるのかを書き出したら、これとこれを組み合わせようとか、パズルのようにひとつの話に作り上げていく感じです。
松坂 集めたキーワードが話に当てはまらないとか、話はできたけれど、シリーズの中には組み込みにくいとか、そういったことは……。
甲田 ありましたありました。
松坂 特にシリーズ後半の方は本筋の話も進めながらですから、物語の構成は相当大変なんだろうなと思いながら読んでいました。
甲田 シリーズものの最後の方は、好き勝手できなくなってくるんですよ(笑)。『Missing』もそうでしたし、『グリム』もそうでしたが。
松坂 それぞれの物語をお書きになる時、最初にクライマックスまでの設定をお作りになった上でスタートされるんですか?
甲田 実はそうでもなく、私は書いてみないとわからない方なんです。「こういう話にしよう」っていうのは、プロットとしては最初に箇条書きにしてあるんですけど。書いてみるとイメージと合わないとか、膨らませていくと違う方向に膨らんだとか、結局は出したプロットを全然守ってない書き方になるタイプで(笑)。
コミック担当 編集さんに原稿をお渡ししたら「これは打ち合わせと違う!」みたいなことが…。
和田 それはもう、『グリム』の前、『Missing』の時からそうですし(笑)。打ち合わせも基本的にご飯食べながら「次の話はどっちの童話がいいですかー?」みたいなノリでしたよね。「シリーズ冒頭の方はキャッチーな童話で行きましょう」「3巻目は『人魚姫』※2で行きますか」とか。……既に『人魚姫』はグリムではなく、アンデルセンの童話ですけどね(一同笑)。
甲田 『Missing』の頃からプロットを守ってないので。最初からの付き合いなので慣れてるので、ほとんど細かい話はしない(笑)。
和田 打ち合わせも「怖ければいいですよ」とか。
コミック担当 走りながら作っていく感じですね(笑)。コミックの方も「何話までにここまでのエピソードを入れよう」とか打ち合わせはしているんですが、なかなか守れなくて…。ちょっと展開が遅くなったりしてますけど。
甲田 あの話も入れてこの話も入れて、大丈夫なのって思いますけどね(笑)。
松坂 担当さんと「このペースでやっていると『白雪姫』※3まで完結するのに15年かかりますよね」って話になって(一同笑)。『灰かぶり』は設定を説明しなければならないところが多いんで、絵をつけると意外とページを取ってしまうんですよね…。そういった意味では上下巻の『人魚姫』の方が、意外と『灰かぶり』より短くまとまるかもしれません。
甲田 『Missing』の頃から思ってますけど、私の作品の1巻目はメディアミックスに向かない。説明がたくさん入るので(笑)。
松坂 次の巻はどういう話にしようと決めて、かなり作り込んだけれど、「やっぱり他の話にしよう」というようなことはあったのでしょうか。
和田 それは…ないですよね。
甲田 多分和田さんの方には、それは伝わってないはずです。
和田 あ、ただ書いてる途中で「頭からやり直します」というようなことは多々ありました。「5章までいったけど全部白紙にします」とか。
松坂・コミック担当 ええ!?
甲田 渡したプロット…紙ぺらに全部収まるようなお話と別に、私のパソコンの中にデータがありまして、プロットの10倍くらいの量の箇条書きのメモとアイデアが並んでいたんです。それをピックアップして書いていくんですが、このままじゃ面白くないなとか、すごく面白いんだけど物語の流れに組み合わないなというところを弾いていって、最終的に一冊になるんですね。
松坂 かなりの量の没になったアイデアや原稿があるんでしょうか。
甲田 山ほどあったんですけど、一部それを外伝の短編『時槻風乃と黒い童話の夜』※4にリサイクル中です(笑)。ただ一部データが消えてしまって…。当初この短編リサイクルの予定が無かったので、全部を残してなかったんですね。全部残ってたらあのシリーズももうちょっと楽に書けたかもしれないんですけれど(笑)。
コミック担当 そのデータ、かなりの財産ですよね。それは確かにもったいない。

《※1》Missing▶ラジオドラマやコミック化もされた、甲田学人最初の長編シリーズ作品。2001年7月から2005年6月にかけて刊行された。イラストは翠川しん。全13巻。電撃文庫刊。高校の文芸部に所属する男女5人と神隠しの少女を中心に展開する、ホラー要素も強い現代ファンタジー。
《※2》人魚姫▶1836年に発表されたアンデルセンによる童話。『断章のグリム』では3〜4巻で、初の上下巻構成となる。
《※3》白雪姫▶グリム童話の一篇。『断章のグリム』16〜17巻では、シリーズ最終章の童話。
《※4》時槻風乃と黒い童話の夜▶『断章のグリム』のスピンオフ作品。メディアワークス文庫から3巻までが刊行中。