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ドット絵の匠・
インタビューシリーズ❻

『クインティ』そして『ジェリーボーイ』杉森 建 編

第3回:『ジェリーボーイ』を作っていた頃のこと

※取材・文:とみさわ昭仁
※撮影:鈴木昭寿
※編集:山本直人(株式会社アンビット)
取材協力:株式会社ゲームフリーク
杉森 建さん写真 机にあるのは同人誌『ゲームフリーク』

■いいドット絵とダメなドット絵

──次は『ジェリーボーイ』についておうかがいします。これは、ゲームフリークが株式会社となってから最初の製品ですよね。

杉森 そうです。会社として本格的にゲームを作っていこうとなって、まずはメーカーさんと契約を結んで、作り始めました。

ジェリーボーイ
『ジェリーボーイ』は1991年9月13日発売のスーパーファミコン用ゲームカセット。発売はEPICソニー。
スライムの主人公・ジェリーを操作で変形させたり、壁に貼り付かせたりしながら進むアクションゲーム。

──ただ、これに関しては、プロジェクトをまるまる請け負うのではなくて、最初、ゲームフリークでは企画だけを担当していたそうで。

杉森 そうですね、まだ会社にスタッフが少なかった時代ですから。

──そのへんのことは田尻社長がインタビューなどでも語っておられますが、ようするに企画だけを請け負ったり、あるいはプログラムだけを請け負うことで、社内に複数のプロジェクトを走らせる。そうやってリスク回避を図っていたわけですね。でも、『ジェリーボーイ』では企画だけを請け負って、プログラムはもちろん、ドット絵さえも外注に出したわけですが、絵を本業とする杉森さんとしては嫌ではありませんでしたか?

杉森 その時点ではとくに嫌だという感情はなかったですけど、正直「どうなるんだろう?」とは思いました。

──その結果どうなったかは、わたしも当事者だったので知ってるわけですが(笑)。

杉森 そうですね、ぼくらが思い描いて仕様書にしたものとは、ずいぶんテイストの違うグラフィックが上がってきて、びっくりしました。

──え、あれがこうなっちゃうの? っていう。

杉森 まあ文化が違うとしか言いようがないですね。『ジェリーボーイ』でグラフィック作成とプログラミングを請け負ってくれた会社は、パソコンゲームの世界で実績を積んできた会社でした。パソコンゲームの文化と、コンシューマゲームやアーケードゲームの文化は、同じ“ゲーム”でもちょっと違うんです。

──とくに、あのときのプログラマーさんは、物理演算に命をかけてるタイプの方でした。

杉森 それはそれですごい才能だとは思うんですが、ぼくらが理想とするゲームは、物理法則をシミュレートすることよりも、遊びとして楽しい嘘をつこうぜ、みたいな感じでした。ところが、先方から上がってきたのは、その正反対のものだった。

──主人公ジェリー(※丸いスライム状の生物)のドット絵は、妙に透き通った……なんていうのかな、日本のテレビゲームのキャラクターって、マンガ的なデフォルメが施されているものが一般的じゃないですか。ところが、そういうものとはまったく正反対な、やけにリアルなものを見せられましたね。

杉森 ぼくの絵はマンガ絵ですから、やっぱり外側には輪郭線がほしいとか、もっと塗りはパキッとしたアニメっぽい感じがいいとか、そういうイメージでいたし、それは仕様書にも盛り込んだつもりだったんですけどね。

■アイデアが頭の中にドット絵になった状態で浮かんでいる

──それで全部やり直しにして、ゲームフリークというか、杉森さんがすべてのドット絵を描き直すことになるわけですが、それってすんなりいったんですかね、よく先方の会社もそんなわがままを聞き入れてくれたなと。

杉森 ですよねえ。だから(当時のぼくらは)何も考えてなかったんじゃないですかね。いまだったら、ドット絵を描いてくれた人のことを気づかったりもすると思うけど、あのときはすごい腹を立てて、お前らには任せておけん! みたいな気分だった。ずいぶん尊大な態度で接してしまったなと思います。

──世間から見れば、あの頃のゲームフリークはアマチュアに毛が生えた程度のものだったでしょうからね。

杉森 なんの実績もないのに、自信だけはありましたからねえ。ともかく、ドット絵を修正するために、ぼくはエピックソニー(※『ジェリーボーイ』の発売元)の本社に1年くらい通いました。

──あ、そうでしたか。それは覚えてないな。

杉森 1年くらい毎日ソニーへ通って、向こうの機材でドットを全部打ち直した。会社(ゲームフリーク)ではあの仕事はやってないんですよ。開発ツールも来てなかったし。

──ああ、そうか。

杉森 ゲームフリークにとっては、初めて手掛けるスーパーファミコン用ソフトでしたからね。

──杉森さん、『ジェリーボーイ』ではキャラクターのアクション仕様とかも書いてるじゃないですか。そういうアイデアを考えるとき、もう頭の中にドット絵になった状態も浮かんでいたりするんですか?

杉森 ……そうですね、浮かんでます。

──すると、おもしろいアクションのアイディアを思いついたけど、それをグラフィック的に表現するのは難しそうだからアイデアの方を少し修正しようとか、そういうこともあるわけですか?

杉森 ありますよ。逆に、実現が可能そうなことしか考えなくなってしまうという欠点もあると思うんですけど。

『ジェリーボーイ』敵キャラクターの設定資料
『ジェリーボーイ』敵キャラクターの設定資料。
動きに合わせてどういったグラフィックを設定するのかが細かく描かれている。


『ジェリーボーイ』動作設定の資料。
動きだけでなくそのタイミングなども詳細に指定されている。

──あの頃のゲーム機では、やれることと、やれないこと、っていうのがわりと明確でもありました。

杉森 アイデアを考えるときに、それを技術的にどう実現させるかを同時に考えているのは間違いないです。こうすれば出来そうだな、っていうことを常に考えながら絵も描いてますから。

──それは、最初に『クインティ』で手探りしながらゲームを作ってきたことも影響してるのではないですか。

杉森 それはあるかもしれません。後に『まじかるタルるートくん』や『スクリューブレイカー 轟震どりるれろ』ではディレクターもやったのですが、そういうアイデアとその実現方法を同時に考えるという習慣は、ずいぶん役に立っていると思います。

■絵画的なニュアンスを足していった

──『ジェリーボーイ』の中で、ご自身で気に入ってるキャラクター表現はどこでしょう?

杉森 うーん、ジェリーがパイプに入るところですかね。なんか「ニョロッ」って入っていく感じがいいんじゃないかと。

──あの動きはよかったです。

ジェリーボーイ
『ジェリーボーイ』でパイプの中を進むジェリー。
通路の形に合わせて、つぶれてしまっている。

杉森 そもそも『ジェリーボーイ』はスライム状のキャラクターが主人公で、それが冒険していくというところから発想しています。そのキャラクターならではの仕掛けがうまく決まると、やっぱうれしいです。このキャラクターでないといけないような動きを思いついて、それがマップの仕掛けにきれいにハマると、やっぱりゲームがビシッとするというか。

──『ジェリーボーイ』は主人公の設定から逆算して作っていったゲームだと。

杉森 まあ、スライムとは何か? ということを突き詰めていくとああなる、ってことですよね。

──『ジェリーボーイ』では、当時ゲームフリークに在籍していたわたくしも背景をちょっと描かせてもらいました。で、この機会に「いまだから言える、とみさわ、あそこの絵はダメだったゾ!」っていうところを教えてください。こっそりオレが直しておいたのだ! みたいな(笑)。

杉森 わははは! あのう……やっぱりキチッとしすぎてるところはあった気がします。なんというか、絵のテイストが均一的すぎるというか。

──ああ、そのご指摘は当たってます。わたし、元は製図屋でしたからね。

杉森 たとえば『ジェリーボーイ』の背景には、よくレンガブロックが出てきたと思うんですけど、普通、レンガっていったらこう……(と言いながらホワイトボードに描き始める)こういうパターンを組み合わせて表現するじゃないですか。

──そうですね。16×16ドットのパーツを描いて、それを並べてマップを表現します。

杉森 ところが、とみさわさんの描くブロックはキチッとしすぎていたんですよ。こういうところ(ブロックの輪郭線の一部)をボカしたりすると、いい質感になったりするんですが、そういうことはあんまりしてもらえなかった。

──あははは。非常に納得できるんで、反論のしようもございません。

杉森 ちょっとしたニュアンスなんですけどね。製図をやっていたとのことなので、キチッとしたドットは描いていただけたと思うんですが、絵画的なニュアンスみたいなところは弱かったのかな、と。そこをぼくがちょこちょこっと足していったりしたことを覚えてます。

レンガブロックの描き方を説明する杉森さん
レンガブロックの描き方について、実際にホワイトボードに描いて説明を行う杉森さん。
それとは別に下にある絵は?

ステージセレクト画面
実際のゲーム画面(ステージセレクト画面)。
朽ちているオブジェクトや、ブロックの凹凸で質感をつけているのがわかる。

『ジェリーボーイ』
©︎1991 Sony Music Entertainment (Japan) Inc.

第4回へ続く

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