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ファミ熱!! ゲームの匠

ドット絵の匠・
インタビューシリーズ❸

『FF』のドット絵師 渋谷員子 編

第3回:ファミコンの制約の中で絵を描いていく

※取材・文:とみさわ昭仁
※撮影:木内章浩
※編集:山本悠作(アンビット)
※取材協力:コート・ダジュール 志木店
☆よしみるさん写真

■物語を構成する要素だけで世界を作る

『メタルスレイダーグローリー』序盤
二画面以上の大きなドット絵がスクロールする、
『メタルスレイダーグローリー』序盤の印象的なシーン。

──ではここで、『メタルスレイダーグローリー』を実際に作っていたときのお考えなどを、おきかせください。まず、この企画でいちばんに目指していたのが、「どの画面も必ずどこかが動いていること」だったそうですが、そういう発想が出てきた背景を教えていただきたいんですけれど。

☆よしみる ひとつは、さっきお話しした「自分の描いた絵に色がついて動かせる」ということ。そこがマンガと違うところですよね。もうひとつは、これまでのゲーム特有の常識観みたいなもの──ハードウェアのスペックなど様々な理由で不可能とされることを素直に受け入れてしまっている──そういうことに捉われないようにする、というのがありました。

──ファミコンではこれは無理だよって、ハナからあきらめてしまっていることってありますね。

☆よしみる そうなんです。でも、ぼくは「それは嫌だな」と思って。そんな言い逃れというか言い訳みたいなことをせずに、作中の物語を表現する媒体として全部描き切ることをしたいという想いがありました。ゲームの内容にもよりますが、アドベンチャーゲームだったら、物語世界の中のことだけを表現するべきなのに、システム的な事情でできなくなっていることの言い訳とか、システムの説明テキストが表示されてしまうようなこと。たとえば、フィールドを歩いていたときに「これいじょうはすすめません」って出ちゃう。

──はいはい(笑)。

☆よしみる 「それはちょっとないな」と思って。そういうことは一切やらずに、キャラクターであり、舞台背景であり、そうした物語を構成する要素だけで世界を描きたい。もしも制約があったとしても、それをシナリオの中に織り込んで説明することができれば、プレイヤーが興冷めすることもないだろうし。それを目指すために言っていたのが、「どの画面も必ずどこかが動いている」ということです。

──それはすごいな、ベテランのゲームクリエイターの発想ですよ。最初の1作目で考えるようなことじゃない(笑)。

☆よしみる そうですかね。

──あの、ここにいたるまでに☆よしみるさんが遊んできたゲームの歴史を知っておきたいんですけど、ここまでの話にそれが出てきてないでしょう? たとえば、初めて遊んだコンピューターゲームってなんですか?

☆よしみる 『ゲーム&ウオッチ』とか、そういうのではなくて?

──まあ、それも含めてでいいんですけれど。

☆よしみる 『ゲーム&ウオッチ』は普通にいくつか持っていて、あの『ドンキーコング』的なものであったりとか。

──ゲームに興味がない子供ではなかったんですね。

☆よしみる 最初におもしろいと思ったのは、PC-8800かPC-9800あたりの『大戦略』とか。あのシリーズはすごくはまっちゃって。

──それがおいくつくらいのときですか?

☆よしみる ワークハウスに出入りするようになって、そこにコンピュータがあったんで触らせてもらったときに「あ、ゲームが入ってる」ということで。

──いきなりそこからですか。たとえば、子供の頃に地元のショッピングモールやデパートに行くと、ゲーム機があったりするじゃないですか。そういうものには触れませんでしたか?

☆よしみる 『スペースインベーダー』くらいなら。喫茶店にあったのを少し遊んだくらいなので、いわゆる攻略というほどのことは……。

──熱中はしませんでしたか?

☆よしみる そうですねえ。本当にみんながやっていて、ちょっとやらせてもらう程度。だからゲーセンとか、喫茶店でテーブルになってるあのゲームというものにお金を使うタイプじゃなかったみたいで。

■パズルのように考えながらドットを打つ

スペースコロニー内のラフスケッチ
主人公の妹・あずさと、スペースコロニー内(35区居住区港)のラフスケッチ。

キャラクタードット絵と実際のゲーム画面のグラフィックデータ
キャラクターのドット絵と、背景のドット絵を重ねた、実際のゲーム画面のグラフィックデータ。

──そうでしたか。いや、実に意外です。先ほどの「どの画面も必ずどこかが動いていることという目標を立てた」なんていうのは、いろんなゲームを遊んできて、ここはこうじゃないのになあ、おれが作るならああもしたい、こうもしたい……という鬱憤がたくさん溜まっていたクリエイターの発想だろうと思ったんです。

☆よしみる ああ。それはだから先ほどお話ししたPC-8800、PC-9800、MSX、それからFMシリーズのゲームを遊んだ経験からですよ。MSXはハル研で『ガルフォース』に参加する直前に「こういうのがあるんだよ、おもしろいんだよ」と見せてもらったんですよ。そのときに思ったことが全部そこに凝縮されていて。

──そういうことだったんですね。でも、そういう目標は実際に作業を進めていく中で、ハル研の皆さんに理解してもらえましたか?

☆よしみる そうですねえ……とにかくぼく以外の人たちはみんなプログラマーさんなわけですよね。そういう人たちはこれまでに当然たくさんのゲームを見てきていて、いろんなゲームのことをご存知だったりするわけですよね。そうすると、最初に作成して持っていったグラフィックが、おそらくその方々の想像を超えていたものだったということだと思うんですけど。

──そうですね。岩田さんが驚かれたくらいだし。

☆よしみる それで、よそ者のぼくにも仲良くしてくれたというか、なんでも言うことはきいてくれていて、「こうしたいんだけど、実現する方法はありますか?」ってきくと「できますよ」って言ってくれて、すぐにシステムを組んでくれるという流れでした。だから、ゲームの内容について、構成やグラフィックについて否定されたことは1回もなかったですね。

──ぼくの印象だと、たいていのプログラマーは面倒な仕様を出されると「それはできません」って言うものなんですけど(笑)、でも、ハル研さんはそういうところじゃないというのも、人づてにきいたりはしています。本当にそうだったんだなあ……。では、実際にゲームを作っていて苦労したところは? という、ありきたりの質問に対する答えは「ない」ってことに?

☆よしみる いや、苦労したのはやっぱりファミコンの仕様ですね。『メタルスレイダーグローリー』はグラフィック表現に重きを置いたゲームですけど、ファミコンはこういうグラフィックを描くのに適してないハードなんですよ。

──スペック的にそうですね。

☆よしみる 一般の方は「パレットの色数が少ないから大変だよね」とか「ドットのサイズが一個一個デカいのも大変だよね」なんてことを想像されると思うんですけど。

──一般の方はそれさえご存じないと思います(笑)。

☆よしみる いちばんのネックは、16×16ドットのパレットの境界面なんですよ。

──境界面。はい、わかりません。

☆よしみる これがいちばん大変なところで(と、資料を見せながら)、いまこれは仮に引いてありますけど、この小さいほうの四角が8×8、大きいほうが16×16で、BGに関してはこの16×16の中にひとつのパレットを割り振るという仕様になってるんです。なので、このパレットとこのパレットの中にファミコンで言うと3色指定することができるんですけど、その隣に別のパレットが来たときに別の3色ということになるわけですね。そうすると、どう考えても別のパレットと別のパレットで6色出そうと思ったら、この縦横のマスの線が明らかになっちゃいますよね。

──えーと、えーと(話についていくのに必死)。

☆よしみる 違う色の3色で構成されているということは、境目がはっきりしてしまうということになるじゃないですか。それをわからせないようにするためには、隣同士のパレットで共有する色を必ず1色持たなきゃいけないんです。そうすると、全体的に色数が減っていきますよね。それを本当にパズルのように考えていかなければならないんです。

──ゲームを作ること自体がすでにゲームのようです。

☆よしみる 『海岸線のエリナ』のシーンは、たまたま空と海との境界面を水平線のところに持ってきているから、この横のラインがばっちり出てしまってもかまわないんですけど、パースのかかった斜めの線であるとか、キャラクターのハイライトや影の位置というのは、その縦の線が出たらダメです。それをいかに感じさせないようにするかというドットの打ち方が、いちばん大変だったところでしたねえ。

──さーて、このお話をわたしはどうやって原稿に起こせばいいのでしょう(笑)。

■自分で原画を描いて、ドットを打って、切り分けて

ファミコンのカセット内のバンクを画像出力したもの
ファミコンのカセット内のバンク(後述)を画像出力したもの。
『メタルスレイダーグローリー』の場合、こんな状態でドット絵が格納されているのだ。

☆よしみる よくある『スーパーマリオブラザーズ』なんかに代表されるアクションゲームとか、シューティングゲームのスクロールするBG(背景)って、必ず16ドット単位で描かれているじゃないですか。あれは、こうした制約があるせいなんですよ。

──はい、だからファミコン大きな一枚絵を描くのが難しいんでしたね。わたしも当時それに関わる仕事をしていましたが、もうファミコンの仕様など忘れています。

☆よしみる それで、実際に16×16ドット単位で描いたものを収めるバンクというのがあって、そのバンクにはファミコンの1画面の中で表現するものをすべて入れておかなければいけません。そうやってバンクに収めた状態の画面を、当時、ビデオプリンターで出力したものがあるので持ってきました。

──おお~。

☆よしみる バンクに収めるときはさらに細かく、8×8ドットに分割します。最初はまずベタで128×128の大きなドット絵を描くんですけど、それを最終的には8×8ドット単位に分割して、このバンクに収納します。この作業がかなりハードルが高かったんですよ。

──思い出してきました。そうだそうだ、わたしもその作業やりました!

☆よしみる バンク内に保持できるパーツ数には制限がありますから、流用できるパーツが多いほど作業はラクになります。一色ベタで塗りつぶされている部分なんかは、全部流用できるからいいんですけど、斜めのラインとかは流用が利かないんで、工夫が必要になります。

──これは☆よしみるさんがご自身で原画を描いて、ドットも打って、こういうパーツに切り分けていく作業までやったから可能だったんですね。

☆よしみる だと思います。

──外注のイラストレーターが、こういう斜めの線が入り組んだ原画を描いてきたら「ふざけんな!」ってなりますよ(笑)。

☆よしみる 開発作業の前期に、ハル研さんの社内にもグラフィック部門ができたからということで、新しいスタッフの方々が描いたものを見たんですけど、やっぱり先ほど言ったパレットの境界というのがハードルが高くて、やっぱり縦横の境界線が出ちゃってるんですよ。それらは最終的に全部ぼくが直させていただきました。

──うーん、すごいな。開発中にハル研から「うちに来ない?」って誘われたりしなかったんでしょうか。

☆よしみる それはなかったと思いますけど(笑)。とにかく、そのときは『メタルスレイダーグローリー』の開発プロジェクトがガンガン動いてるときだったので、会社は契約面のこととか余計な雑音がぼくの耳に入らないようにしてくれていたのかもしれないです。

第4回へ続く

★記事に登場したゲームの情報★

※『メタルスレイダーグローリー』は2017年4月現在、Wii UのバーチャルコンソールWiiのバーチャルコンソールで配信中です。

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ファミコンで最も精緻なドット絵
☆よしみる 編

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