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ファミ熱!! ゲームの匠

ドット絵の匠・
インタビューシリーズ❷

『FF』のドット絵師 渋谷員子 編

第4回:やっと見えてきた自分の絵の描き方

※取材・文:とみさわ昭仁
※撮影:株式会社プロダクションベイジュ 鎌田重昭
※取材協力:株式会社スクウェア・エニックス
渋谷さん写真

■塊に影をつけ、奥に入っていく

──キャラを頭の中、つまり脳内で動かしている。しかも3Dで。

渋谷 3Dツールで作業をするときの画面って、4分割……固定カメラの正面と、横方向と、上からと、自由にカメラを動かせる画面があって、そのカメラをぐるぐる回して視点変更しますよね。その機能と同じものがここ(頭の中)にあるんですよ。

──脳内にツールが。

渋谷 そうすると、キャラクターが倒れているポーズなんかを描いていて、ドットを打ちながら「胴の向こう側にある手はどうなっているのかな」と見えないところを想像したときに、頭の中には3Dのモデルがあるから、それを自分でカメラを回して見ているんですよ。それで「あ~、なるほど、そうなってるのか!」みたいに納得する。

──うわー!(笑)

渋谷 他人から見れば、出来上がったものはただの2Dのグラフィックなんですが、いろいろなポーズを取っているときに、見えていない部分とか髪の毛のあっち側とか、いろいろありますよね。そういうのが私の頭の中ですべて3Dになっている。

──紙で下描きというか、スケッチしたりはしないんですか?

渋谷 それは一切しません。頭の中に浮かび上がっている映像をドットに置き換えていく。私がやっているのはそういう作業なんだなっていうのを、14年間のブランクのあとに気がついたんです。

──はあ~、それはすごいな。ちょっとこじつけめいたことを言うと、渋谷さんがそうやって頭の中で3Dのモデリングをしているというのは、中学時代にずっと石膏像のデッサンをされてたこととつながっている気がしますね。

渋谷 ああ、そうです、そうです! そこは間違いなくつながっています。私がドット打つときは完璧に3Dで打っているんですが、それって石膏像をスケッチしているときと同じ感覚です。

──おもしろいなー。

渋谷 ドット絵を描いてる人でも、イラストからこっちの道へ来た人は輪郭線から描いたりするんです。平面からのアプローチなんですね。でも、私がドット絵を描くときは、まず塊(かたまり)を描くんですね。塊をポンと置いて、そこから影を入れていくんですよ。

──それは彫刻の手法ですね。塊から形を削り出していく感じ。

渋谷 そうです。イラストから来た人は、輪郭を描いて、その中に色を塗って、形を“出していく”作業をする方が多いんですけど、私の場合は影をつけていくので“奥に入っていく”作業をするんです。ここ数年で、それが私の描き方なんだと気づきました。より暗いところは暗くドットを打つし、手前のところは明るくドットを打つ。

──まさに、木から仏を削り出していく作業ですね。

ファイナルファンタジーVのイベントシーン
『ファイナルファンタジーV』の、こちらはイベントシーン。
陰影のついた描写が建物の立体感を感じさせる。
飛び去る飛竜のドット絵のアニメーションも美しかった。
Ⓒ1992 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

■後輩にはできるだけ具体的な指示を出す

渋谷 外注さんを何人か指導したことあるんですけど。そのときには会社に来てもらって、私がじかに指導しました。

──渋谷さんのやり方を他人に教えるのは難しいでしょう?

渋谷 どうしても言葉だけだと通じないので、目の前で私がポーズをとって(笑)。「これ、ユーザーから見て一番手前にくるのはどこ?」とか、「上半身をこう捻ったら下半身はもっとこうなるでしょ?」「重心はどこに?」と全部実演してみせて。

──ぼくもいま脳内で渋谷さんがポーズとっているのを想像しました。

渋谷 ふふふ、そうやって指導すると皆さんわかってくれるんですよ。「何かヘンだから直そう」じゃなくて、「ここはこうだからこう直してください」と、できるだけ具体的な修正指示を出すようにしています。それは2Dのカードイラストでも同じで、「羽根の質感がプラスチックに見えるから、ここは羽毛のように仕上げて」とか。そうすると「すごくわかりやすくて助かります!」って言われます。

──それは教わるほうもありがたいですね。

渋谷 いま私は後輩たちの指導をする立場にあって、いろいろな責任をともないます。無駄なリテイク作業を減らして、作業時間を短縮するためにも、できるだけ具体的な指示が必要になるんです。

──立体の形状だけでなく、素材感も重要?

渋谷 けっこう質感にはこだわりますね。レザーだったり羽毛だったり。鉄とかプラスチックだったりとか。とくにカードイラストではそういうところも大事になってくるので。

──ゲーム画面でもイラストでも、表現技術が上がっていくと、いろいろな要素に気を配らなければいけないですね。

渋谷 でも、そういうことに対する方法論って、この何年かこうやってインタビューを受けたりするようになって、初めて自分でもわかってきた感じなんですよ。それまでは、ただ無意識にやってきたことですから。

■ドット絵には人を笑顔にする力がある

──理論化できると、人にも教えやすくなりますね。

渋谷 あ、それも大きいですよ。人に教える立場になったことで、いままで以上に勉強や実験をするようになりましたから。

──実験というのはどんな感じで?

渋谷 修正させる前に、まずは自分でも少し手を入れてみるんですよ。たとえば2Dのイラストで、「この腕の形がちょっと好きじゃない」けど、「ひょっとしたらこのほうがいいのかもしれない」っていうのを、本人に伝える前に自分で試してみる。あるいは色をちょっと変えてみたりとか。やっぱり、修正してもらうのにあまりいい加減なこと言っちゃいけないので、自分で検証してから指示を出す。

──余計に時間はかかるでしょう?

渋谷 でも、そうすることで相手が時間をかけずに修正できれば、次はさらに短時間で正解を出してくれるようになって、こちらとしては結果的に助かる。

──うーん、すごいな。ちゃんと教える側の人の発想になってる。

渋谷 2Dイラストのディレクションをするのも楽しいですね。子供の頃、少女漫画家になりたくてイラストをいっぱい描いてきたから、ちょっと昔懐かしい感じがして。私、いまのこの仕事、高校生だったら出来たかも……って(笑)。

──もうドット絵のお仕事はされないのですか?

渋谷 そんなことはないですよ。2012年に発売された『FF TRIBUTE –THANKS-』というコンピレーションアルバムのジャケットで、歴代『FF』シリーズのキャラをドット絵に起こす、なんて仕事をしました。

ファイナルファンタジー生誕25周年アルバム
『ファイナルファンタジー』の生誕25周年(2012年当時)記念にリリースされた、シリーズ初のトリビュート・アルバム。
ジャケットは渋谷さんの描き下ろしドット絵だった。
Ⓒ1987-2012 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
ILLUSTRATION: Ⓒ2012 YOSHITAKA AMANO

──へえ、ということは、渋谷さんが担当されなかった作品のキャラも?

渋谷 そうですね。それで、完成したドット絵を見たスタッフが、すごい喜んでくれまして……。ドット絵っていうのは、最先端のCGみたいに美しさで人を圧倒するようなことはないんですが、自然と人を笑顔にしてしまう魅力がありますね。

──『FF』のチビキャラだったら尚更ですよ!

渋谷 描いてる私自身も、モニターに向かってドットを打ちながら、ニヤニヤしてしまうことも多いんです。ユーザーに喜んでもらえると嬉しいな、と思いながら。

第5回へ続く

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