ファミ熱!!プロジェクト

ファミ熱!! ゲームの匠

ドット絵の匠・
インタビューシリーズ❷

『FF』のドット絵師 渋谷員子 編

第3回:14年間のブランクで得たもの

※取材・文:とみさわ昭仁
※撮影:株式会社プロダクションベイジュ 鎌田重昭
※取材協力:株式会社スクウェア・エニックス
渋谷さん写真

■その絵に対してもっと緊張していこう

──スクウェアさんは、かなり早い段階からいい形で成長して来られましたよね。

渋谷 そうですね。『FF』以前はあまり売れていたとは言えませんが、それでも、当時のメンバーがよかったし、いい時代でもありました。

──ゲーム業界全体にも、そういう伸びしろがあった。

渋谷 そうです。ゲーム業界的にもよかったし、私にとっては坂口・田中・青木・植松といったメンバーが私の前にいてくれたことがとても大きいです。日吉のオフィスで彼らと出会って「私の人生決まった」みたいな感じです。

──ラッキーだった?

渋谷 ラッキーだったと言えばラッキーなのかな。これは私の個人的な想いですけど、本当にゲームが好きでこの業界に来ると、ちょっとしんどいじゃないですか。『FF』みたいなものを作りたいとか、ものすごいゲームを作りたいとか、こういうキャラを描きたいとか、いろいろ皆さん夢を持ってこの業界に入って来ると思うんですけど、いざ現場に来ればライバルは多いし、思った通りのものが描ける人っていうのは、そう多くはない。

──ええ。

渋谷 とくに、うちの会社は、素晴らしい絵が描けて当たり前という技術レベルの人しかいないんですよ。そうなると、あまり夢いっぱいで来ても大丈夫かな? って心配になるときがあります。希望通りの仕事ができるかどうかはわからないし、キャラを描きたいのに、ずっと葉っぱのテクスチャしか描かせてもらえないとか。それはそれで技術はいりますけれど。

──会社が大きくなれば、当然そういうことはありますね。

渋谷 分業がすごく激しいので、ゲームが完成したときにも「自分がやった」っていう場所は一瞬しか出てこない。とくに絵描きだったら、自分の描いた絵がたくさん出てほしいじゃないですか。

──そうですね。タイトル画面になってほしいし、メインのキャラクターにもなってほしい。

渋谷 いまはゲームグラフィックも技術レベルが上がって、分業化も進んでいるし、基本的にはマシンがやってくれることなので、自分の手で描いたものは見えづらくなっています。その点で、私は自分の描いたものがそのままゲーム画面で見えるような時代からやってこれて、すごくよかったと思います。

──いま、渋谷さんは後輩たちへの指導をすることも多いでしょう?

渋谷 はい。後輩たちとか、外注さんとか……。それで2D 関係の仕事のディレクションをする機会もあって、2Dだとわりと描いたものがダイレクトにユーザーの目に触れます。そういう意味では、自分の描いた絵がスマホの画面を通して実際にユーザーに見てもらえるのは「もっと喜んでいいことなんだよ」と後輩たちに言いますね。自分の描いた一枚絵が、そのまま日本中、世界中の方々の目に触れるっていうのはすごくエキサイティングな事なんだから「その絵に対してもっと緊張していこうよ」「もっと責任感も持っていこうよ」と。

──ゲームに関わる様々な職種の中でも、「絵」の人と「音楽」の人は、その魅力がユーザーにダイレクトに伝わりますからね。

渋谷 描いても製品にならないこともありますが、基本的にはそういう気持ちで仕事に取り組んでほしいと、いつもイラストレーターの方々に言います。そして楽しんで描いてほしいと。

■仕事はやっていればいつかは終わる

──では、そのいい時代というか、かつて苦労されていた頃のお話を少しうかがいたいんですけど。たとえば、あちこちでお話しされていると思いますが、例の『FF』のタイトル画面を描かれたときのこととか……。

渋谷 あれは坂口か、田中のどちらか忘れましたが、「橋を渡ったところで一枚絵を出そう」って言われて、少ない容量の中でやりくりして描きました。ただ、あんまり苦労した記憶はないですよ。

初代『ファイナルファンタジー』のタイトル画面のグラフィック
初代『ファイナルファンタジー』のタイトル画面のグラフィック。
ゲームをしばらく進めたところで表示されるという凝った演出と、光の戦士たちのシルエットが印象的だった。
Ⓒ1987 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

──ここまでお話をうかがっていても、楽しくずっと仕事をされてきた印象があります。

渋谷 そのときは辛いですけどね(笑)。膨大なノルマがあって、締め切りがあって。『FF』はそうでもないんですが、『ロマンシング サ・ガ』はキャラの数が多くて……。あのシリーズは『1』と『3』と、あと『サガ フロンティア』もやっているんですけど、シリーズを追うごとに容量が増えていって、キャラも増えて、作業の負担が多くなっていくんですよ。そうなったときに「終わらない!」って思うこともありました。

ロマンシング サ・ガ
『ロマンシング サ・ガ』には8人の主人公が登場する。
『FF』よりもパーティのキャラが多かったのでドット絵も大変だった!?
Ⓒ1992 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

マンシング サ・ガ3
『ロマンシング サ・ガ3』は1995年11月に発売。
スクウェア(当時)のスーパーファミコンも円熟期。
緻密なドット絵が美しい。
Ⓒ1995 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

──ぼくは以前、あるゲーム雑誌で坂口さんにインタビューさせていただいたことがあって、たしか『FF IV』を作っている頃だったと思うんですが、そのときに坂口さんは「『FF』シリーズではキャラクターがちまちま芝居するのが楽しいから、今後はそれをさらに突き詰めていきたい」とおっしゃっていました。それは、『FF』シリーズに限らず、その後のスクウェア作品の個性にもなっていったのですが、当然、そのためには各キャラの動作パターンの描き分けで地獄を見ていた人がいるわけですね(笑)。

渋谷 『FF』シリーズは『FF V』がつらかったですねえ。それは当時、坂口にも文句を言ったんですよ。ジョブが多いって! 私一人じゃとても手に負えないので、あのときは二人で描きました。

──それでも、たった二人ですか(笑)。

『ファイナルファンタジーIII』のドット絵の原画のコピー
『ファイナルファンタジーIII』のドット絵の原画のコピー。
この原画はスクウェアに在籍していた石井(浩一)さんが描いたもの。
『FF1』と『FF3』はパーティ4人の各キャラの絵は、同じジョブ(職業)であれば同じドット絵が表示されていた。
Ⓒ1990 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

バッツとレナの、ジョブごとの基本の立ち絵
『ファイナルファンタジーⅤ』ではメインキャラクター全5人の見た目が、計26種類のジョブ(職業)ごとに変わる。
しかも各ドット絵ごとにアニメーションも複数用意されているので、描かないといけないドット絵の数が膨大な量に!
写真はバッツとレナの、ジョブごとの基本の立ち絵。
Ⓒ1992 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

渋谷 プレイヤーキャラに関しては二人ですね。ただ、『FF V』のときはグラフィックデザイナー自体はもう少し増えていて、モンスター担当とか背景担当とか分担していたから、その点では楽なんです。でも、『FF III』までは私一人でなんでも描いていたので、なかなか仕事の終わりが見えないのが大変でした。それでも仕事が終わらなかったことはないので、結局、やればいつかは終わる、っていう感じでした(笑)。

■キャラを脳内で3Dで動かしている

──アニメーションを勉強されていたことって、役に立っていますか?

渋谷 そうですね。とくにキャラを歩かせたり、それから戦闘のときにアニメーション……動画みたいなアニメじゃないですけど、いろいろなポーズを取るでしょう? あれは、アニメーションの基礎が役に立っていることもありますが、3Dのモデリングをやった経験もあるので、それが実は役に立っています。

──3Dのモデリングはどの作品のときに?

渋谷 『サガ フロンティア』ですね。そのときに「Softimage」や「Maya」で3Dモデリングを覚えて、モーションを付けたりもやっていたんです。そのときの経験で、さらにドット絵を描くための技術も向上した……。

──ん? 3Dのモデリングを覚えたのがドット絵に役立った?

渋谷 そうです。

──どういうことだろう……。もう少し具体的に教えていただけますか。

渋谷 これは自分でもどう説明していいのか難しいんですけど、私、しばらくキャラのドット絵を描く現場から離れていた期間があるんですよ。その間、3Dをやったり、そのあとはUI(ユーザーインターフェース)や文字フォントのデザインとか、そういうことをしばらくやっていて。

──はい。

渋谷 14年くらいドットを打っていなかったんですけど、時田(貴司)から『FF IV ジ・アフターイヤーズ -月の帰還-』に誘われて、すごい久しぶりにドット絵を描いたら「私、上手くなってる!」って。

──14年間もブランクがあったのに。

FF IV ジ・アフターイヤーズ -月の帰還-
2008年にフューチャーフォン用アプリで登場した『FF IV ジ・アフターイヤーズ -月の帰還-』。
渋谷さんが久しぶりにドット絵を担当した作品だ。
写真はキャラクターの立ち絵と、アニメパターン。
Ⓒ2008-2009 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.ILLUSTRATION / Ⓒ2010YOSHITAKA AMANO

ファイナルファンタジーレジェンズ 光と闇の戦士
2010年にはフューチャーフォン用アプリの『ファイナルファンタジーレジェンズ 光と闇の戦士』でも渋谷さんがドット絵を担当されている。
Ⓒ2010 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.ILLUSTRATION / Ⓒ2010YOSHITAKA AMANO

渋谷 そうなんですけど、でも、そうやって『FF IV ジ・アフターイヤーズ -月の帰還-』や『FF レジェンズ』をやっているときに、自分の中で3Dをやっていたことが、ドット絵にも役立っていることがわかったんですよね。剣を振り上げたり、魔法を詠唱したり、あるいはダメージ食らって倒れたり、いろいろなポーズがあるんですけど、そういうのを描くときにキャラを頭の中で3D で動かしている自分に気づいたんです。

──頭の中で……(この話、次回へ続きます!)。

第4回へ続く

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