ファミ熱!!プロジェクト

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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第28回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第107巻収録
「大混戦『こち亀』ゲームの巻」

 本連載の第25回で取り上げたように、漫画の中の話ではなく本当に『こち亀』のゲームは作られた。PlayStation®︎(以下、プレステ)用の『こちら葛飾区亀有公園前派出所 ハイテクビル侵攻阻止作戦!の巻』が1997年7月24日、セガサターン(以下、サターン)用の 『こちら葛飾区亀有公園前派出所 中川ランド大レース!の巻』が同年8月29日の発売だ。

 今回紹介する「大混戦『こち亀』ゲームの巻」は、その2作のうち『中川ランド大レース!の巻』を両さんたちが実際に遊んでみるという話である。漫画を題材にしたゲームを、漫画の中の人物が遊ぶというメタな構造は、世に漫画は数あれど『こち亀』くらいでしか起こり得ないであろう。

■シーン1

 派出所の前に、派出所より長いリムジンが停まる。周囲には黒服のボディーガードが数人。中から降りてきたのは中川。いつもはスポーツカーを自分で運転してくるのに、リムジン出勤とは珍しい。

 後部座席には、まだ誰かが乗っているようだ。必要以上に周囲を警戒しながら、窓越しに別れの挨拶をしている。プレゼントを渡す中川。受け取る笑顔の主は、どこかで見たような顔……。

107巻/P107/1コマ目
107巻/P107/1コマ目

「事務所に100万本の薔薇を送っておいたよ」と、底抜けにキザなセリフを吐く中川。どうやらデート帰りらしいが、“事務所”とはいったいなんのことか。両さんがパフィーの右(すなわち大貫亜美さん)に似てたな……とつぶやくと、中川は大慌て。なんと、大貫亜美と世界一周のデートに出かけていたというのである。

 前回取り上げた「CDモンスター!!の巻」では、両さんが『モンスターファーム』でモンスターを生成するためにパフィーのCDを利用する場面が出てきたが、あれは今回のための伏線だったのだ。

 大貫亜美は以前から『こち亀』好きであることを公言しており、コミックス104巻では巻末に推薦文も寄せている。なかでも中川圭一のファンだそうで、それを秋本先生が漫画の中で実現させてあげたというのが、今回のエピソードの導入部分。粋なことをなさる!

 それはさておき、「どうしてわしにはゲーノー人の友達がいないんだ!」と嘆く両さんだが、ちょうどそこに来客がやってくる。第25回で紹介した「やったぜ!ゲーム化の巻」にも登場したバンダイの太田(くどいようだが漫画の中の人物なので、敬称略)である。

107巻/P111/5~6コマ目
107巻/P111/5~6コマ目

 バンダイ太田が持ってきたのは『こちら葛飾区亀有公園前派出所 ハイテクビル侵攻阻止作戦!の巻』と 『こちら葛飾区亀有公園前派出所 中川ランド大レース!の巻』の新作ゲーム2本だった。

■シーン2

 自分たちがゲーム化されたのだから、そりゃあ両さんでなくとも大感激である。だが、欲深い両さんのこと。ゲーム化だけでは飽き足らず、自分や麗子をアクションドール化する計画の進展具合を問い詰める。太田はこのプロジェクトに気乗りしないので、のらりくらりと話をはぐらかす。最後には、電話で呼び出されたフリをして、その場から退場する。

 さて、今回はここからが本番。完成した『こち亀』のゲームを、派出所のみんなで実際に遊んでみることにするのだ。

107巻/P117/1~2コマ目
107巻/P33/1~2コマ目

 はっきり申し上げるが、このエピソードは見事なまでにゲームのプロモーションである。『こち亀』ワールドの出演者たちが自らワイワイとゲームを遊んでみせるなんて、どんな広告よりも効果のある宣伝だろう。一歩まちがえれば公私混同にもなりかねないが、こんな不思議なことが起こるのは、現実の出来事やアイテムをどんどん作中に取り込んでいく『こち亀』ならではのことだから、ここは好意的に受け止めたい。

 遊ぶのは、サターンの『中川ランド大レース!の巻』の方だ。こちらはボードゲームなので、大勢で遊ぶのにぴったり。ページ数の関係上、プレステ用の『ハイテクビル侵攻阻止作戦!の巻』は取り上げられないのだが、さりげなく両さんのセリフで「一人で楽しむならPSの『ハイテクビル侵攻阻止作戦』の方だ」と、フォーローも抜かりない。

 繰り返しになるが、漫画を題材にしたゲームを漫画の中の人物が遊ぶという構造は非常にメタなものだ。それが極まっているのが、オープニングデモに中川の父・中川龍一郎が登場するシーンだろう。

107巻/P118/3~4コマ目
107巻/P118/3~4コマ目

 何しろ忙しい人物で、複数の会社の経営に携わり、睡眠時間は3日で5分。肉親でさえ会うためには予約が必要。たとえ予約をしても、会えるのは11年後という状態。そんな父に、中川はゲームの中で再会する。その中川は漫画の中の存在。でも、このゲームは現実世界にある。何が何だかわからないのである。

 ついでに言うと、ここに掲載したコマの中川龍一郎の絵がまたいい。一見、いつもの秋本先生のタッチのようにも見えるけれど、目を凝らしてよく見ると、輪郭線にそれとなくギザギザが描き込まれていて、ゲーム画面であることが示されている。

 これがファミコンの頃なら、もっとガタガタのドット絵で描かれ、一目でゲーム画面だとわかったはずだ。しかし、『中川ランド大レース!の巻』はサターン用のゲームなのでグラフィックの解像度が高い。そのため、見た目のうえではゲーム画面(中川父:右のコマ)と、漫画の絵(中川:左のコマ)との差がほとんど感じられない。それをなんとか差別化しようとする苦労の跡が、このギザギザからは読み取れるわけだ。

■シーン3

 ゲームをするために集ったメンバーは両津、中川、本田、麗子、マリア、ボルボの6人。このゲームでセレクトできるメンバー(の本人)が全員揃っている。ここで両さんは、自分のキャラではなく、他人を選ぼうと提案する。

107巻/P119/3~4コマ目
107巻/P119/3~4コマ目

 このアイデアは非常に楽しいし、なんといっても漫画の中でなければできないことだ。この「こちゲー」は『こち亀』とゲームとの関わりを分析していくエッセイだが、『こち亀』が実際にゲーム化され、漫画の登場人物たちがそのゲームで遊ぶという展開は、『こち亀』とゲームとの関わりの、ある種の頂点だとも言えるだろう。

 このあとも、みんなでワイワイ遊びながら、引き続きゲームの見どころを紹介していく。中川と麗子の所持金が最初からMAXになっていること、本田の移動能力はバイクを入手することで一気に跳ね上がること、両さんは妨害工作ばかりすることなど、原作の設定がかなり忠実に反映されている。

 結局、真っ先にゴールへ到達したのは両さんだが、勝ったのはそれを操作していた本田。両さんとしてはなんだか釈然としない。おまけにみんなから「汚い手ばかり使って勝った」だの、「本人のキャラそのまんま」だのと言われる始末。なんとかして、ここに至るまでの鬱憤を晴らしたい両さんは、とんでもない提案をする。

107巻/P122/7コマ目
107巻/P122/7コマ目

 パフィーと自分たちが登場するゲームを開発せよと、中川に迫るのだ。しかも実写で。ようするにパフィーに会いたいんだね。大貫亜美とデートできる中川のことが、よほど羨ましかったに違いない。

 ちなみに『こち亀』のゲーム化は、このエピソードに登場する2本の他にも、ニンテンドーDS用として『こちら亀有公園前派出所 勝てば天国!負ければ地獄! 両津流一攫千金大作戦』というのが2010年6月17日に発売されている。あれほどの豊かなキャラクターやエピソードが蓄積されているコンテンツだから、まだまだ他にゲーム化の可能性はある。いちおう、ぼくもゲームデザイナーの端くれですので、ちょっとここで「もし、自分が『こち亀』をゲーム化するなら?」を考えてみたい。

 2020年のいま、やはりプラットフォームに選ぶべきはスマートフォンだろう。ジャンルは……GPSを使った位置情報ゲーム。たとえば、亀有をはじめとして千束、浅草、佃島といった両さんに所縁のある土地をめぐっての遊びはどうだろう。亀有駅の周辺には、両さんたちの銅像など『こち亀』にまつわるスポットがたくさんある。そういうところをポータルとして回ったら……って、それじゃ葛飾区の住人だけが超有利なゲームになってしまうか!

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第29回へ続く

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