ファミ熱!!プロジェクト

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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第26回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第106巻収録
「スーパーリアルオーナーゲーム!!の巻」

 読者の皆さんはお気づきだろうか。『こちゲー』ではコミックスに掲載された順番に沿って作品を追いかけているわけだが、第21回から第25回までに取り上げたエピソードは、すべてコミックス第105巻に収録されていたことを。

 これらのエピソードが「週刊少年ジャンプ」に掲載されたのは、だいたい1997年の5月から6月にかけてのことだ。ゲームを題材にしたネタを、これだけの短期間に集中して描いたということは、この時期の秋本治先生はかなりゲームにハマっていたのかもしれない。

 実際、ゲーム業界自体もいろいろと変革や躍進の起こった時期でもあった。前年にはスクウェア(当時)が『ファイナルファンタジー』の新作をプレイステーション向けに制作することを発表。翌1997年にはエニックス(当時)も『ドラゴンクエスト』の新作をプレステへ移籍させると発表し、プレステ躍進のきっかけを作った。また、前年に発売された『ポケットモンスター 赤・緑』は、1997年にテレビアニメが始まると人気に火がつき、ゲームボーイをはじめとする携帯ゲーム機市場を活性化させた。長らくゲーム界のスーパースターとして君臨していたマリオも『スーパーマリオ64』で3D化され、ゲーム空間が一気にリアリズムを増していく先駆けとなった。

 今回取り上げる「スーパーリアルオーナーゲーム!!の巻」は、リアルさが売りの野球ゲームを中川の豪邸にあるシアタールームでプレイする、という話だ。これまでなら「現実並みにリアルな野球ゲーム」を、「スクリーンサイズの大画面でプレイする」なんて、いかにも『こち亀』らしい大袈裟な展開だと笑うところだが、現実は少しずつ『こち亀』に近づいてきている。そんなエピソードである。

■シーン1

『こち亀』では中川の自宅の豪華さが何度も描かれているため、熱心な読者ならいまさら驚くことはないはず。それでも、本エピソードの冒頭に描かれている豪邸はやはり桁外れで、圧倒させられる。広大な敷地の中にお城のような屋敷がそびえ立ち、古代ギリシアをイメージさせる彫像の数々が並ぶ。

 だが、やはり圧巻なのは、次のページで姿をあらわすシアタールームだ。

106巻/P146/3コマ目
106巻/P146/3コマ目

 いや、訂正しよう。これはシアタールームなんて規模じゃないね。ほとんど映画館。というかオペラハウス。こんなものが中川邸には普通にある。

 さて、コマのセリフで執事が「セットしておきました」と言っているのは、ゲームのこと。大スクリーンに映し出されたタイトル画面には『スーパー・リアル・シミュレーション・ベースボール』とある。架空のゲームのようだが、リアルな頭身で描画された選手を操作する野球ゲームだ。これを遊ぶために両さん、中川、麗子、本田、寺井といった、お馴染みの面々が集まったのだ。

 座席には、13インチほどの小型モニターが取り付けてある。また、別のコマではセガサターンのものに似たコントローラーも描かれている。ようするに手元のモニターで細部を確認しながら操作し、全体的には大画面で迫力を味わう、という遊び方だ。漫画なので音までは伝わってこないが、きっと音声も大迫力であることだろう。

 麗子「どう選手を育成するかで決まるわね」
 中川「まずは先輩のチームと麗子さんのチームの一回戦です」

 というセリフからもわかるように、このゲームはプレイヤーの操作テクニックが勝敗を左右するアクション性の強い野球ゲームというより、監督としての采配や球団運営の能力が問われるシミュレーションゲームのようだ。実際、両さんはピッチャーが打たれるとすぐに交代させ、控えの投手がいなくなると外野手までマウンドに送り込んでボロ負けするという描写がある。監督のような役割にはまったく向いてない人物であるのは、皆さんご存知の通り。

106巻/P148/3~4コマ目
106巻/P148/3~4コマ目

■シーン2

 さすがの両さんも育成の重要さを思い知ったのだろう、選手の基礎訓練に取り掛かる。が、なにしろ忍耐力のない男だからして、非常に面倒くさそうだ。シミュレーションゲームはそこがおもしろいのにね。中川も「一流選手に育てるのが楽しいんですよ」と言っている。

 オーナー兼カントク兼鬼コーチの両さんによる練習は厳しい。選手はバタバタと倒れ、弱音を吐いてしまう。そこをうまくフォローして、選手たちの能力を引き出してやるのが優れた指導者なのだが、それを両さんに望むのは無理というもの。「きさまら二人ともクビだ」とバッサリ。

106巻/P149/5~6コマ目
106巻/P149/5~6コマ目

 そして両さんが繰り出す手段は、メジャーリーグからの選手の引き抜きだ。このゲームにはそんな機能も用意されているらしい。かなり強引な契約金交渉をして、両さんは選手をかき集めてくる。お金の力でチームを強化……。どこかで聞いたことのあるような話だ。『スーパー・リアル・シミュレーション・ベースボール』は、グラフィックやモーションだけがリアルなのかと思ったら、そんなところもリアルなのだった。

 さて、札束で頬をひっぱたいて作り上げた最強軍団で、両さんは寺井との三連戦に臨む。チームの総合力に圧倒的な差がついてしまっているので、当然のことながら守備では完璧に抑え込み、攻撃ではホームランの連発だ。「育てるより実力は金で買うもんだ!」などと豪語する両さん。

 一方、寺井はというと、プレイの合間にコチョコチョと何かをメモしている。どうやら、両さんが連れてきた外人選手のデータを分析しているらしい。そんな寺井の行動を両さんは鼻にもかけず、「耳クソみたいなマネしやがって!」とか、「わしは『人生ホームラン』だからな」とか、「時間のムダだと思うけどね」とか、言いっ放しである。ところが、こうした寺井の地道な努力が後々になって立場を逆転させることになる。

 露骨にホームランのサインを出し、積極的な攻撃を仕掛ける両さんチーム。しかし、あっけなく三振に終わってしまう。外人選手の調子の悪さをいぶかしむ両さんに、背後で見ていた中川は調子が悪いわけではないと指摘する。

106巻/P154/3~4コマ目
106巻/P154/3~4コマ目

 そう、寺井は採取したデータを元に、両さんが繰り出してくる選手が苦手とするコースを見抜いていたのだ。パワーでゴリ押しする両さんに対して、少ない戦力を緻密な作戦で補う寺井。シミュレーションタイプの野球ゲームを題材に選んだことが、こうした展開に活かされている。

 このエピソードが描かれた時期におけるスポーツゲームのトレンドとしては、まず1996年に『Jリーグ プロサッカークラブをつくろう!』(セガサターン)が登場。さらに2年後の1998年には『プロ野球チームもつくろう!』(セガサターン)が登場している。育成タイプのスポーツゲームは1985年の『ベストナインプロ野球』(FM-7、PC-9801)あたりが源流だと思われるが、それが大きく花開き始めたのが、ちょうどこの時期だったのだと言えるだろう。

 最近では、育成する野球ゲームの変わり種として『ベースボール・コレクション』(アーケード)のようなものもある。コンピューターゲームとカードゲームを融合させたシステムで、試合は選手カードを手元のプレイフィールドに配置して進めていく。2018年に登場した製品だが、1997年に描かれた本エピソードの試合画面にも似たところがあって、相変わらず『こち亀』の未来予測はすごいと唸らされる。

■シーン3

 さて、両さんは寺井を見習って球団の運営方針を変えるかというと、そんなわけはない。「『だめ』と言われると100倍の力でやり返すのがわしの主義だ」と言い放ち、強引に前へ突き進む。その結果、試合を無茶苦茶にしてしまう。みんなは呆れ果て、両さんに勝ちを譲って、ゲームは終了となる。

106巻/P159/7コマ目
106巻/P159/7コマ目

 だが、そんなことを言われると、なおさら引けなくなるのが両さんでもある。言うに事欠いて「やはりスポーツはゲームより本物の方がいい!」と、このエピソードの設定を根底からひっくり返す発言が飛び出すのだ。

 本当の決着をつけるべく両さんが企画したのは、自分がオーナーを務める商店街の野球チームと、葛飾署チームとの実戦だ。商店街チームは荒くれ者ばかりのうえに、甲子園出場経験者までいるので、本気で強い。どう考えても寺井が集めた葛飾署チームには勝ち目がなさそう。かくして、物語は中川邸から外へと飛び出……さずに、中川家の敷地内にあるドーム球場で行われることとなった。

 で、このあと両さんの強豪チームと寺井の集めた貧弱チームが、しょっぱい試合を展開させることになるのかと思いきや、まさかの事態が起こる。

106巻/P161/3コマ目
106巻/P161/3コマ目

 なんと、グラウンドに降り立ったヘリから出てきたのは、メジャーリーグのアトランタ・ブレインズ(ブレーブスがモデルでしょうね)の選手たち。寺井のことを心配した中川が、ひと肌脱いで彼らを呼び寄せていたのである。最後は、ゲームのリアルさとは違う意味で、リアルな絵を見せてくれたエピソードだった。

第27回へ続く

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