ファミ熱!!プロジェクト

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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第25回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第105巻収録
「やったぜ!ゲーム化の巻」

『こち亀』には、秋本治先生自身を始めとして、ときどき実在の人物が登場する。太田裕美(4巻)、アラン・ドロン(7巻)、小室哲哉(104巻)、PUFFY(107巻)といった芸能人が多くを占めるが、かつて亀有に実在した亀有名画座の今井通雄支配人(115巻)のような例もある。

 今回、取り上げる「やったぜ!ゲーム化の巻」には、バンダイ(現バンダイナムコエンターテインメント)の太田健介氏が登場する。この人も実在する人物で、1994年にバンダイへ入社すると、『デジタルモンスター』の企画開発などを担当。その後、バンダイを退職すると声優に転身し、現在はボルケーノ太田という芸名で活躍中という変わった経歴の持ち主だ。

 そんな太田(ここから先は漫画の中の人物として話を進めるので、敬称略)が、両さんを訪ねて派出所にやって来る。なんと、両さんをゲーム化したいというのだ。

『こち亀』のゲーム化といえば、1997年の夏に『こちら葛飾区亀有公園前派出所 ハイテクビル侵攻阻止作戦!の巻』(プレイステーション)、 『こちら葛飾区亀有公園前派出所 中川ランド大レース!の巻』(セガサターン)という2本のソフトが、実際に発売されている。本エピソードは、これらの発売に合わせて描かれたものだ。

■シーン1

 派出所にやって来た太田は、両さんをゲーム化したいと切り出す。そう、実際に『こち亀』はゲーム化されたわけだが、ここで太田が言っているのは、あくまでも「両さんのゲーム化」だ。どちらでも一緒だと思われるかもしれないが、ちょっと違う。だって『こち亀』ワールドの中からの視点で見ると、両さんといえども、ただの警察官(公務員)でしかない。それをゲーム化しようというのは、なかなか狂った企画じゃないか。

 だが、この太田はすでに両さんをフィギュア化した実績を持つ男だ。そのときの経緯は、本作より3週前に掲載されたエピソード「両さんの超合金講座の巻」で語られている。

105巻/P110/4~5コマ目
105巻/P110/4~5コマ目「両さんの超合金講座の巻」より

 超合金というのはバンダイから発売されているロボット玩具の名称で、本当は亜鉛ダイキャスト製ながら、設定上「超合金」ということになっている。このラインナップに両津勘吉を加えることをバンダイの太田は提案し、実現させた。さらに全身40ヵ所も稼働するアクションドールまで作ってしまった(※どちらも実際に発売されました)。

 それに続けとばかりに、太田は両さんのゲーム化を相談しに来たのである。

 もちろん、歓びを隠せない両さんではあるが、その一方で監修者としての両さんは、非常にうるさい存在でもある。アクションドールのときも、非常に細かいところまで指示してくるので大変だったという。ましてや、ゲーム王の異名を持つ両さんだ。自分をゲーム化するとなれば、さぞや厳しいツッコミを入れてくることだろう。

「先生は『インベーダー』ブームの頃からゲームをされているとか…」と、両さんのゲーム歴を確認する太田に対して、両さんは「もっと以前からだ!」と一蹴する。そうなのだ。両さんのゲーム歴は半端でなく古い。インベーダーブームが起こるよりずっと前、『テレビテニス』の頃からゲームをやっていたのだ。

105巻/P167/1~2コマ目
105巻/P167/1~2コマ目

『テレビテニス』とは、その名前の通りテニスをゲーム化したものだが、当時のゲーム状況を知らない人が見たら「これのどこがテニス?」と思うことだろう。なにしろ、真っ黒な画面に白い枠線が引いてあり、四角い点が左右に行ったり来たりするだけのものだから。だが、あの当時それは紛れもなく「テニス」だった。

 その後も両さんは『ブロックくずし』や『風船割り』など、自らのゲーム遍歴を振り返る。喫茶店に置かれたテーブル筐体は、その中にブラウン管とゲーム基板が収納されているため、足がつかえてテーブルとしては使いにくかったこと。初期のゲームはまだ画面が白黒で、カラーセロファンを貼り付けて擬似的にカラー化していたことなど、懐かしいエピソードを畳み掛ける。

 で、いつもならここらあたりが前振りで、いよいよ本題に入っていくはず……なのだが、話の輪に中川が入ってきたことで、両さんの思い出話はさらにヒートアップしてゆく。

■シーン2

「当時は毎日喫茶店でやってましたよね」と『スペースインベーダー』の思い出を語り合う中川と両さん。これは、この二人だけのことではなく、あの頃はみんなそうだったのだ。ぼくも学校帰りには毎日のようにゲームセンターを覗いていたし、鳥嶋和彦さん(「週刊少年ジャンプ」編集者、現・白泉社会長)にインタビューしたときも「神保町にあるすべての喫茶店で、どの店がいつ頃空いてるかを調べた」と言っていた。

 ブームのピーク時には、喫茶店もゲームセンターも混んでいてなかなかゲームができない。やっと順番が来ても、1回100円なので、上達するまではお金がかかってしょうがない。そこで、無理してゲーム筐体を買ってしまうという豪の者も現れた(本連載の第1回で紹介したように、両さんもその一人)。

 とはいえ、さすがに業務用のゲーム筐体は高いので、普通の人はおいそれと手が出せない。ところが、そんなタイミングで登場したのが、アタリ社の家庭用ゲーム機「ATARI VCS(Atari 2600)」だ。1980年に『スペースインベーダー』が移植されると、200万本以上を売り上げる大ヒットとなった。当然、両さんはそれも買って、一日中タダでゲームをしたと、昔を回想する。

105巻/P169/1~2コマ目
105巻/P169/1~2コマ目

『スペースインベーダー』の次は『パックマン』。中川の口からその名前が出ると、両さんは嬉しそうにパンと手を打ち鳴らす。かなり楽しかった思い出があるのだろう。続いて『ハングオン』『平安京エイリアン』『ギャラクシアン』『ジービー』『ムーンクレスタ』『ラリーX』『ミサイルコマンド』『クレイジークライマー』と、かつての名作タイトルがゾロゾロと頻出する。

 さらに『ドンキーコング』では、いきなり台から飛び降りて次の面に行く裏技(※初期バージョンのみ。その後、市場には修正されたものが出回った)を「日本で一番最初に発見したのはわしだ!」と豪語し、『ディグダグ』では「三匹まとめておびき寄せて石で一気に押しつぶすのが快感なんだよなーっ」と懐かしがる。

『ドンキーコング』も『ディグダグ』も、これまでこの連載で取り上げてきた。つまり、今回の「やったぜ!ゲーム化の巻」は『こち亀』にゲームが登場した回を振り返っていることにもなるわけで、すなわち、このエピソード自体が「こちゲー」でもある、と言えるだろう。

105巻/P171/6コマ目
105巻/P171/6コマ目

■シーン3

 ともかく、自身のゲーム化という局面を迎えた両さんは、「このわしがプロデュースするわしのゲームだ」「半端な物を作るわけにはいかんのだ」と、異常に力が入っている。

 そこで思い出すのは、あのゲームソフト……。1989年に発売された『ファミコンジャンプ 英雄列伝』である。

105巻/P172/3~4コマ目
105巻/P172/3~4コマ目

 両さんのゲームデビュー作となった『ファミコンジャンプ』は、残念ながらあまり出来のいいゲームとは言えなかった。なにしろ、古くは『男一匹ガキ大将』『ハレンチ学園』『包丁人味平』『サーキットの狼』などの往年の名作から、『北斗の拳』『きまぐれオレンジ☆ロード』『ハイスクール奇面組』『ドラゴンボール』といった近年(当時)の話題作までを片っ端から混ぜ合わせた、いったいどの層をターゲットにしているのかよくわからない珍作だったのだ。

 ぼくは当時「週刊少年ジャンプ」の『ファミコン神拳』というゲーム紹介記事のスタッフをやっていたが、『ファミコンジャンプ』のサンプル版が届いた日、編集部で遊び始めた途端に頭をかかえてしまった。立場上、ジャンプ関連のゲームのことを悪く評価するわけにはいかないからだ。

 さすがの両さんでも、きっとそうだったはず。発売直後に本音をぶっちゃけるわけにはいかない。だが、8年も経てばなんでも言える。「大味なゲーム」「不気味なゲーム」「悪乗りしてまで出て」「いきなりワゴンの中」と、ここでは言いたい放題である。

 そんな闇鍋的ゲームの歴史を乗り越え、ようやく一枚看板としてゲームソフトになれる日が来たのだ。両さんは感動の涙を拭いながら「もはや達観した! うるさい事はもう言わん!」と理解を示す。

 ……かと思いきや、「初回発売本数は100万本でいいから!」と無理難題を吹っかける。さらに「プロデューサーはスティーブン・スピルバーグにたのむぞ!」「シナリオは堀井雄二氏」「キャラは鳥山明氏」「音楽は小室哲哉氏」と手加減なし。その後も、『ドラクエ』の新作に出演させろだの、『ダビスタ』に両津勘吉の名前を付けろだの、バンダイの人間に言ってもどうにもならないことばかり持ちかける。

105巻/P179/7~8コマ目
105巻/P179/7~8コマ目

 結局、人気の巨大ロボットがベーゴマ対決するという企画に落ち着き、太田はその案を会社へ持って帰ることになるのだが、当然のことながらそんなもんボツである。「ちくしょういいアイデアだったのに!」と悔しがる両さんだが、そこへ救世主が現れる。両さん考案の『スーパーロボットベーゴマメンコ大戦』をゲーム化したいという会社があったのだ。

 対応するゲーム機はどれだろう? サターンか、プレステか、あるいはニンテンドー64か。まさかのネオジオか、はたまた3DOか、PC-FXか。どのゲーム機の名前を出してもなかなか首を縦に振らない担当者が口にしたのは、聞いたこともないメーカーの新ハード「一発ぴゅん太くん」だった──。

第26回へ続く

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