ファミ熱!!プロジェクト

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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第23回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第105巻収録
美少女SLG!!の巻」

 この連載の第20回でも触れたが、プリクラが大ヒットしたことで同業他社からも類似のシール印刷機が続々と作られた。そんなプリクラのヒットを受けて登場したのが、セガとデータイーストの共同開発による『スタンプ倶楽部』(1996年)だ。通称「スタクラ」と呼ばれたこちらは、プリクラ同様に自分の顔を撮影するとスタンプに加工されて出てくる、というものだ。

今回取り上げるエピソード「美少女SLG!!の巻」は、白バイ隊員の本田とガールフレンドの乙姫菜々がゲームセンターのスタクラに並んでいるところから始まる。せっかくのデートなのに、なぜか一緒に両さんも並んでいるのだが……。

■シーン1

 並びながら「やばいなあ」とボヤく両さん。何がやばいのかといえば、自分たちの前でスタンプを作っている女の子たちがなかなか終えようとしないのだ。スタクラの内部にセットしてあるスタンプの材料には上限があるので、このままでは自分たちの順番が来る前に終わってしまう。焦った両さんは、女の子たちを叱りつける。

105巻/P46/6コマ目
105巻/P46/6コマ目

 ゲームセンターのゲームに「1人1回まで」という決まりはないが、大勢の人が楽しむ場所である以上、マナーというものはある。うしろに順番待ちをしている人がいたら、なるべく譲ってあげたい。

 かつて、『スペースインベーダー』が大ブームになった際には、テーブルに100円玉を積み上げてエンドレスにプレイする客が続出した。いま振り返れば、あれも社会現象をあらわす貴重な光景だったのだと思うが、当時、順番待ちしていた身としては「何度もコンティニューしてんじゃねーよ」とイラついていたわけで、やっぱりマナーを守って遊んでいただきたいものだ。

 というわけで両さんが予想した通り、順番が来る直前にスタンプは品切れとなってしまう。がっかりする本田と乙姫。だが、両さんはそんなことを気にもせず、本田たちに次のゲーセンへ行こうと誘う。

105巻/P47/6コマ目
105巻/P47/6コマ目

「夕方にはほとんど品切れ状態だ」「だから夕方から時差をつけて始める所もある」と両さん。ちょっとわかりにくいので補足すると、プリクラの印画紙と違ってスタクラのスタンプ台はかさばる。そのため機械の中にセットしておける数は限られるから、品切れを起こしてしまいがちだ。そこで、他店が品切れを起こすであろう頃合いを見計らって稼働を開始させれば、あぶれた客を自分の店に誘導することができる、という営業戦略があったのだ。

 こんなちょっとしたセリフにもマニアックな情報が紛れ込ませてあったりして、あらためて『こち亀』の凄みを感じさせられる。

■シーン2

 スタクラのネタはここまで。二軒目に訪れたゲーセンで、両さんは中川と左近寺がいるのに気がつく。この2人が一緒にいるのはちょっと珍しい。彼らはゲームの市場調査に来たと言うが、警察官にそんな仕事はないよね。おそらく中川が所有するゲーム会社の仕事、ということなのだろう。中川はそれで説明がつくが、左近寺は何をしに来ているのか?

「お前がゲーセンに来た理由はわかるぞ」と両さんはすべてお見通し。なぜなら、この日は左近寺の大好きな『どきメモ』のアーケード機『どきメモラー BIRTH』の入荷日だったからだ。

105巻/P49/4コマ目
105巻/P49/4コマ目

 この連載の第13回「電脳ラブストーリーの巻」でも紹介したように、『こち亀』に恋愛シミュレーションが登場すると、だいたいいつも危険な展開になる。女の子の扱いに不慣れな本田(当時)など、画面内の女の子に言われるままクレジットカードの番号を教えてしまっていた。本田以上に女の子への免疫がない左近寺が、ダイレクトにお金を投入できるアーケードゲームなどやったら、いったいどんなことになってしまうのか……。

『どきメモラー BIRTH』は、最初に赤ちゃんが生まれるところから始まる。この子に名前をつけてあげるのだ。他人事だと思って「ブタ子」を提案する両さんを拒否して「さおり」にする左近寺。この子が成長しても、かつて『どきメモ』で攻略を試みたさおりになるわけはないのだが、それでもこの名前に固執するあたり、左近寺の一途な性格が垣間見える。

 可愛い赤ちゃんのさおりが泣き出した。「ミルクをあげる」「母親を呼ぶ」「赤ちゃんと遊ぶ」などの選択肢が出る。遊びに連れて行くのなら「公園」「デパート」「遊園地」「土手」といった選択肢が出る。現実の子育てがそうであるように、ゲームにおいても子育ては選択肢の連続である。たとえ間違っても、命に関わるようなことでない限りはリカバリーできるが、それでも理想的な道を歩ませてあげたいと思うのが、親心というものだ。

 あれこれしているうちに、さおりは中学校へ進学する。と、ここで唐突にゲームは中断され、コンティニューするかどうかを問いかけてくる。

105巻/P51/7~8コマ目
105巻/P51/7~8コマ目

 ここでのコンティニューには3コースあり、Aコースは100円、Bコースは300円、Cコースは500円。課金を伴う選択肢とは、なんと恐ろしいゲームシステムだろうか。

 慎重な両さんは「とりあえず100円だろ!」と、もっとも安いAコースを選ばせるが、お金をケチったのがいけなかったのか、可愛らしかったさおりは不良になってしまう。あわわわ、この先の展開が読める……。

 左近寺の親心(というか恋心)の足元を見るように、『どきメモラー BIRTH』の課金システムは加速していく。不良化したさおりは露骨に小遣いをせびるようになり、もはやこのゲームが集金装置であることを隠そうともしない。

 中学では部活選びでふたたび選択肢が出る。バレー部、テニス部、茶道部など色々ある中から、左近寺は「水泳部」を選ぶ。絶対その先にあるのは露骨な集金だと予想できるのだが、それでも水泳部を選んでしまう。これはシステムの罪ではなく、男の性(さが)だ。ぼくもこればかりは左近寺を責める気になれない。

 で、その結果こうなる。

105巻/P55/3~4コマ目
105巻/P55/3~4コマ目

「脱衣マージャンシステムですね」と中川は言うが、それを通り越してほとんどエロゲーである。その後、さおりは着替えの途中で金額を増減させながら(そこが巧みだ)何度も金銭を要求してくる。結局、水着に着替えるシーンだけで左近寺はトータル1,300円も投入してしまったのだった。

■シーン3

 そんなことをやっている間、本田は何をしていたのかというと、彼が愛してやまない恋愛シミュレーション『学園伝説 キャンパス フェアリー』のアーケード版である。本田よ、彼女をほったらかして何やってんだ。

105巻/P60/7~8コマ目
105巻/P60/7~8コマ目

 こちらは『どきメモラー BIRTH』以上に要求する金額がえげつなく、1万円もするバッグをおねだりしてくる。本田はうっかり財布から万札を取り出し、あわや投入というところで両さんに引き止められる。

 これ、ゲーセンの筐体に万札を投入するスロットがついていたりするのでフィクションっぽく感じられるが、現代のスマホゲームでは無計画に課金しているとすぐに万単位のお金が消えてしまう。つまり、あながち無茶な飛躍でもなかったわけだ。『こち亀』のギャグは未来を予測していると言われることが多いが、ここにもその芽を見ることができるだろう。

 それはさておき、両さんが周囲を見回すとゲームセンターの中は恋愛シミュレーションや育成シミュレーションばかりになっている。ここで両さんの言う「育てるというより育てられているんじゃねえのか?」とは鋭いセリフだ。

105巻/P62/1~2コマ目
105巻/P62/1~2コマ目

 たくさんの質問に答えるのは、アンケートに答えることと同じだ。ゲームでキャラクターを育てていたつもりが、いつの間にか自分が財布の紐のゆるい客として育てられてしまっている。

 金儲けには抜け目のない両さんである。そんなことに気づいてしまったからには黙っていられない。急用を思い出したと言い残し、中川のゲーム会社へ向かって駆け出して行く。そう、これらのシステムをさらに激化させたゲーム機を開発するために──。

第24回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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