ファミ熱!!プロジェクト

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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第22回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第105巻収録
「シルバー雇用おまかせ!!の巻」

 ファミコンが登場した時点では、ゲームというのは新しい遊びに敏感な子供たちや、一部のマニアだけが楽しむ程度のものだった。性別で見ても、ゲームプレイヤーは男性の割合が多かった。ところが、時間が経つにつれてゲームは一般層にも浸透していき、やがて誰もが普通に楽しむ趣味へと変わっていった。

 恋愛シミュレーションは、当初、男性向けのゲームジャンルとして登場したが、1994年になるとコーエーが『アンジェリーク』を発表し、女性向け恋愛シミュレーションの市場を開拓した。それが受け入れられるくらいに女性ゲーマーも増加してきていた、ということなのだろう。

 今回取り上げるエピソード「シルバー雇用おまかせ!!の巻」では、老人とゲームの関係が主題となっている。アイデアマンの両さんは、暇を持て余している老人たちをゲーム開発の現場に送り込み、あまつさえ老人向けゲームという新ジャンルを開拓しようとするのだった──。

■シーン1

 いつもの派出所。両さんは、大原部長から地域の巡回を命じられる。公園前派出所の周辺には独居老人が多く住んでいるので、一軒ずつ訪ねて様子を見て来いというわけだ。

 最初に訪ねたのは、金有金作じいさんのところ。いきなりドアを開け「動くな、警察だ!」と驚かすお茶目な両さんだが、本当に警察官なんだから嘘は言ってない。一方、金作じいさんはというと、部屋の中央でうつぶせに倒れており、微動だにしない。これは部長の心配していたことが現実になってしまったか!

 と、焦ったところで「ふああ、よく寝た!」と起きるじいさん。年金暮らしでやることもなく、寝てばかりいるのだそうだ。そんな暮らしをしていると老ける一方だ。たまには外で身体を動かしたほうがいいと、両さんは他の老人たちも誘って公園でスケートボードを始める。

 まあ、無茶ですね。スケボーが全身運動なのは間違いないが、どう考えても老人が手を出すべきことではない。案の定、5人も大怪我をさせてしまい、部長から大目玉をくらう。中川や麗子からも責められた両さんは、それなら「アウトドアはもうやめる」と宣言。かわりに何をさせるのかというと……。

105巻/P30/6コマ目
105巻/P30/6コマ目

 テレビゲームである。

 両さんが自分の部屋から持ち込んだと思われるセガサターンの横には『ナイト(ナイツ?)』や『バーチャン(バーチャロン?)』などのソフトが見える。他に、プラモデルやガレージキットなども用意してある。指先で細かい作業をするのは、老化防止にも効果的だという話はよく耳にする。そう考えると、楽しみながら頭を使って手先も動かすことになるテレビゲームは、うってつけの趣味と言えるだろう。両さんもたまには良いことをする。

 それからしばらくして、おかしな噂が町内で囁かれるようになる。「茶髪の老人がゲームセンターに現れる」というのだ。

 もちろん両さんの影響であることは明らかで、「遊ばせるくらいなら働けるところを世話してやれ!」と叱られる始末。とはいえ、70歳を過ぎた老人を雇用してくれるところなど、そうそうあるはずもない。どうしたものかと考えあぐねていると、老人のひとり源さんがコントローラーを握ったまま倒れた。

105巻/P33/1~2コマ目
105巻/P33/1~2コマ目

 恋愛シミュレーションゲームは血圧を上げるので、老人が夢中になるとヤバイのだ。しかし、アクションゲームは相性がいいらしい。なにしろ時間だけはたっぷりあるので、何度も繰り返し練習するうちに上手くなってしまうのだろう。「これを職業に……」と何事かをたくらむ両さんだった。

■シーン2

 やって来たのは両さんの祖父・勘兵衛が経営するゲーム制作会社R.G.C.(リョーツ・ゲーム・カンパニー)。最初に登場したとき(コミックス第96巻)は佃島の長屋に社屋をかまえていたが、いまじゃ立派なビル持ちだ。両さんは、ヒマを持て余した老人たちを、ここで雇ってもらおうと考えたのである。

 順調に業績を伸ばしてきたR.G.C.は、従業員の数も増えている。これまで従業員の平均年齢は88歳だったが、勘兵衛曰く、コンピュータの技術者を増やしたおかげで「86歳に若返った」という。変わりゃしないよ!

 この会社でキャラクターのデザインを担当しているのは、美少女専門の足立くん92歳(前回より2歳トシをとった)に、ロボットが得意な服部くん87歳だ。服部くんは『ロボット三等兵』の時代からのロボ好きだというが、彼らの手掛けるデザインは少しも古臭くない、非常に現代的なものだ。

105巻/P34/3~4コマ目
105巻/P34/3~4コマ目

 そんな職場に、ゲーム制作未経験の老人たちを投入しても役に立つのだろうか? 両さんは、老人向けの格闘ゲームを作れば売れるんじゃないか、と提案する。連れて来た老人たちはゲームの腕前がいいので、テストプレイヤーとして雇えば役に立つだろう、という算段である。

 試しにと、市販の格闘ゲームで両さんが金作じいさんと対戦してみせる。最初は両さんの一方的な攻撃だったが、後半、いきなり金作じいさんがキレると一挙に形勢は逆転して、両さんをぶちのめしてしまった。

105巻/P36/1コマ目
105巻/P36/1コマ目

「キレる」という表現、元々は若者に対して使われていたものだが、いつしか老人たちにも使われるようになった。作家の藤原智美は著書『暴走老人』(2007年)の中で、コミュニケーション不全から奇妙な行動に突っ走る高齢者を「新老人」と定義した。この金作じいさんのキレっぷりが描かれたのは『暴走老人』の発表より10年も前だが、その姿は別の意味で新老人といってもよさそうだ。

 とはいえ、老人であることには変わりがない。両さんから勝利をもぎ取った金作じいさんは息も絶え絶えで、コントローラーを握ったまま前のめりにぶっ倒れる。勘兵衛社長は「心臓に悪いんじゃないか…、格闘ゲームは」と心配そうだが、彼らを雇用させる責任を負った両さんは「そんな事はない!」と必死で説得を試みる。

105巻/P37/4~5コマ目
105巻/P37/4~5コマ目

「単調な日々がダラダラと続くと、そのままストンと落ちて死んじゃうぞ!!」
「ゲームなどで刺激を与え続ければ、落ちるヒマなどない!」

 かなり人道的に問題のある論理展開じゃないかと思うのだが、その勢いに気圧されたか、あるいは経営者としての冷静な計算がはたらいたか、勘兵衛は老人向け格闘ゲームの開発へ乗り出すことを了承するのだった。

■シーン3

 いまだ、どこのメーカーも参入していない新ジャンルを開拓するのは、手探りの作業である。勘兵衛は「技をシンプルに」と考えるが、これを両さんは即座に却下する。「そういうサービスが逆効果だ。複雑なコマンドを指先で打つ事によってボケ防止になるんだ」と説明する。

 いつも無茶なことばかり言う両さんだが、このあたりのセリフはとても鋭い。子供にも理解できるようにシステムを簡単にして……などといって作られたものに子供は見向きもしないし、女性は旅行やスイーツが大好きで……といったあざとさはすぐに見抜かれる。

 両さんの鋭い考察を元に開発された世界初の老人向け格闘ゲーム『じじい伝説拳』は、狙い通り老人たちのストレス解消になって大ヒット。早起きの老人たちは、家族が寝ている朝の3時から孫のゲーム機を借りて熱中する。

105巻/P38/4コマ目
105巻/P38/4コマ目

 格闘ゲームの成功に味をしめた両さんは、続けて老人向け恋愛シミュレーション『ときめき 思ひで』を企画。これがまたまた大ヒット。それを機に作品のファンクラブまで立ち上げ、会員向けグッズを大量投入する。老人たちのファン心理を突いて、ため込んだ貯金を吐き出させようという魂胆だ。

105巻/P39/6コマ目
105巻/P39/6コマ目

 いつもなら、ここらで両さんのツキは急速に失速していくのだが、今回は珍しくトントン拍子に話が進む。R.G.C.が連発するゲームは次々にアニメ化され、ゲーム→アニメ→グッズというメディアミックスのトライアングルが完成していく。老後に2,000万円必要などと言われるいまの時代。ゲームを通じて高齢者の雇用をうまく回す、両さんのような存在が現実世界にもいてくれたらいいのに。

第23回へ続く

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