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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第21回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第105巻収録
「超育てゲー『モンちっち』の巻」

 第19回の「こちゲー」でも紹介したが、当時の『たまごっち』人気は相当なものだったのだろう、少年ジャンプ本誌に「育て たまごっちの巻」が掲載されてから、約2ヶ月後にも「無いちっち たまごっちの巻」というエピソードが掲載されている。こちらは部長の孫娘である桜のために、両さんが入手困難な『たまごっち』を手に入れようと奮闘する話だ。

 それからさらに2ヶ月後、またまた題材として『たまごっち』が取り上げられた。ただし、三度目の登場ともなると、作品内での扱われ方もひと筋縄ではいかなくなってくる。大ヒット作品の人気に目をつけた両さんがオリジナルゲームを作って一攫千金を企むのだが、例によって繰り出すアイデアがどんどんと横滑りしていくのだ。

■シーン1

 最初に登場するのは中川の土手。自転車に乗った麗子と麻里愛(マリア)が中川にかかった中川橋のたもとにやってくる。そこで待っていたのは中川(話がややこしいですか?)。前者の「中川」は、葛飾区内を縦に流れる一級河川のこと。後者の「中川」は、もちろん中川圭一巡査のこと。

 両さんがラジコンヨットの進水式をやるというので、中川はこの場所へ呼び出された。そこへ、麗子とマリアが一緒にお弁当を食べようとやってきたわけだ。サボることが仕事の両さんはともかく、中川たちまで制服姿でいったい何をしているやら。しかも、よく見れば麗子とマリアは自転車の二人乗りだ。

 それはさておき、当の両さんはどこにいるのかというと、少し離れたところで昼寝をしていた。起こそうとした麗子が軽く揺すると、両さんはそのままゴロゴロと土手を転がり落ちて、川の中へボッチャン。お笑いの演出としては実にオーソドックスなものだが、現実にこんなことがあると、たいへんな事態を引き起こすことになる。そう、身につけた電子機器の故障だ。

 頑丈な両さんは水に落ちたくらいでは死なないが、ポケットに入れておいたPHSは水没してダメになってしまった。電子警察手帳もデータが消えてしまっている。

105巻/P10/1~2コマ目
105巻/P10/1~2コマ目

 広げたシートに並べられているのは電子警察手帳をはじめ、携帯電話、ポケベル、PHSなど全部で12台。ぼくは風呂でゲームをしている最中にうっかり手を滑らせ、買ったばかりのNintendo 3DSをダメにしたことがある。それだけでも泣きそうになったのだから、両さんのようにこれだけの電子機器を一瞬で失ったら、死にたくなることだろう。まあ、漫画なのでそこは仕方がないんだけれど。

 で、ここで注目しておきたいのは、ゲームボーイの隣にさりげなく『たまごっち』が描かれていることだ。両さん、しっかり『たまごっち』を遊び続けているようだ。

■シーン2

 両さんの損害額がいくらになるかは考えないことにして、一同はランチタイムを楽しむ。遠くに見える工場は何? とのマリアの問いに、両さんは中川周辺の地域環境やそれにまつわる思い出話を語って聞かせる。

 昔は、常磐線の鉄橋と中川橋との間が貸しボートのエリアで、小学生の頃にはずいぶん乗りまわしたという。本当は橋桁には近づいてはいけないのに、そんなルールを両津少年が守るはずがない。結局、橋を越えて浦安方面まで下っていき、養殖してある海苔を勝手に食べちゃったり、規定の時間までに戻れずボートを乗り捨てて逃げちゃったりしたのだとか。

 そんな悪行三昧の思い出を語っているところに、ピピピと電子音が響く。もちろん両さんのものであるはずがない。音の正体は中川の携帯電話への着信で、経営するゲーム会社から先輩(両津)の試作が出来てきた、との知らせだった。

 一同は、さっそく派出所に戻る。そこには両さんが企画した新作ゲームの試作品が届いていた。それが『モンちっち』である。

105巻/P13/6コマ目
105巻/P13/6コマ目

 見たところ『たまごっち』と同様に小型の携帯ゲームのようだ。ただし、そのデザインはゲームボーイ風である。そして『モンちっち』という怪しげなネーミング……。セリフで「これが『ポケモン』と『たまごっち』を合わせた『モンちっち』だ!」などと思いっきり宣言していて、不安しか感じられない。

 麗子の「両ちゃんが考案したの?」という問いかけに、両さんは「原案総合プロデューサーだよ!」と元気に答えるが、中川は「ポケモンがベースなんだ」と衝撃的なことをさらりと言う。

 さて、ここで『こち亀』には初めて『ポケットモンスター』が登場する。連載時、最初のゲームソフトとなる『ポケモン 赤・緑』は発売されてから1年以上が経過していたが、まだ社会現象にはなっていなかった。その人気に火がついたのは、テレビアニメが始まって少し経ってからだ。そのため、この「超育てゲー『モンちっち』の巻」では、『ポケモン』というゲームの革新性を読者に伝えるために、数コマを割いて図解で『ポケモン』を解説してくれているのだ。

『ポケモン』の解説に続いて、『たまぴっち』(『たまごっち』を内蔵したPHS)のことも同様に解説する。なぜなら、『ポケモン』と『たまぴっち』という両ヒット作のいいところを合体させたのが、両さん考案の『モンちっち』だからである。

「両方のパクリよね」と、言いにくい真実をズバリと指摘する麗子。「デザインもたまごっちとゲームボーイの中間だしね」と追い討ちをかける中川。これに対して「似て非なる物だ!」と激昂する両さんだが、説得力はゼロに等しい。何とは言わないが、『ポケモン』の大ヒット後、ぼくはこれと似たような案件をあちこちで見た……。

 ともかく、両さんとしてはなんとしてもこいつの商品化を進めなければならない。焦った両さんはこの企画がいかに優れているかを、速射砲のように説明する。

 曰く「たまごっち風の可愛いキャラで女の子をファンをゲット」「育てて闘わせてポケモンフリークの男の子をゲット」「携帯やPHSを通じてキャラクターの送受信が可能なので若いゲームファンもゲット」「プリクラシールでの出力も可能なのでコギャルもゲット」、他にキャラの種類が500種、本体カラーも50種のバリエーションがあるので、売れる要素は盛りだくさんだと主張する。

105巻/P16/3~4コマ目
105巻/P16/3~4コマ目

 ぼくは初代『ポケモン』の立ち上げにも参加していたことがあるので、こうした企画に意見する資格が少しくらいはあるはず。だから、ひとこと言っておきたい。

「多けりゃイイってもんじゃないよ!」

 集める対象が少なければ、すぐに終わって達成感が得られない。かといって多過ぎれば、いつまでも目標に手が届かず徒労で終わる。『ポケモン』に限らず、ゲームでも、トレカでも、スタンプラリーでも、物を集めることを目的とする遊びには、それぞれ適切なバランスというものがあるのだ。

 中川、麗子、マリアの3人が「こんなもの売れるはずがない」と断言するが、ぼくも同意見だ。果たして我々の予想は当たるのか──。

■シーン3

 たびたび言ってきたことだが、『こち亀』ワールドでは何が起こるかわからない。大方の予想を裏切り、両さんの『モンちっち』は爆発的なヒットとなってしまう。

105巻/P17/3~4コマ目
105巻/P17/3~4コマ目

 こうなると、俄然エスカレートしていくのが両さんである。ブームに陰りが見え始める前に第2弾を投入。その名も「新機種発覚『モンちっち②』」だ。前作以上にバリエーションを投入し、キャラクターの総数が1,000種、本体カラーは100種と倍増。

 だが、数を増やすということは、そのための作業も倍増するということだ。しかし、企画するのは両さんただ一人。となれば、仕事のクオリティが下がっていくのは目に見えている。本体デザインは杜撰なものばかりになってしまうし、キャラクターも自動車をモチーフにした「くるまっち」、メガネをモチーフにした「めがねっち」と、見たまんまなものばかり。

 これじゃ先が思いやられるな、と不安がもたげてきたところに決定的な問題が発生する。ニセ物の登場である。

『たまごっち』がブームのときも、類似商品はたくさん出回った。怪獣をモチーフにした『ステゴサウルスっち』『ぎゃおっPi』『らくらくダイノくん』。有名メーカーからも人気キャラをたまごっち風にアレンジした『○○○っち』がいろいろ作られた。

 両さんの『モンちっち』は、コンピュータ技術の進んだ台湾でROMが解析され、そのニセ物を中国の工場で安く量産して、香港のブローカーから日本へ輸入されているという。商品名は『モンチ野郎』や『モンきっち』など、微妙に変えてある。「ふざけるな!! 訴えてやるぞ!!」と息巻く両さんだが、そもそも『モンちっち』自体がニセ物なのだから、目くそ鼻くそである。

 両さんは「北風と太陽」で言えば北風のような人だ。「後退」なんて言葉は両さんの辞書にはない。敵がROMを解析してくるなら、その前に第3弾、第4弾と一週間おきに新製品を発売して、先回りする作戦に出てやるのだ。

 だが、そうなると締め切りは次々に迫ってくるし、忙しさに比例してクオリティは下がっていく一方だ。

105巻/P22/3~4コマ目
105巻/P22/3~4コマ目

 勢いというのは恐ろしいもので、それでも売れてしまった。週刊誌のように毎週新機種が登場し、新キャラ投入された。両さんの描いたキャラの総数はおよそ20万体。売る方も、買う方も、そして作る方も、もう何が何だかわからない状態になっていくのだった。

第22回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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