ファミ熱!!プロジェクト

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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第20回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第104巻収録
「バグってチョベリグ!?の巻」

 いつもの派出所で活動日誌を開いた大原部長が、驚きの声を上げる。そこには両津のつたない字が殴り書きされ、さらに部長の顔写真の「プリクラ」がペタペタと貼られていたからだ。

 プリクラというのは『プリント倶楽部』(アトラス/1995)の略で、自分の顔をカメラで撮影してシール用紙に印刷できる機械のことだが、その機械で印刷されたシールのことをプリクラと呼ぶのが一般的だろう。また、『プリント倶楽部』以降に登場した他社製のものも、いまでは全部ひっくるめて「プリクラ」と呼ばれている。

 ブームになったきっかけは、テレビ東京の『愛ラブSMAP!』で、SMAPメンバーのプリクラを番組プレゼントにしたことから、一気に知られるようになる。そのせいかプリクラは女子高生たちの間でとくに人気が高く、仲間と交換したプリクラをびっしり貼り付けたプリクラ帳は、コギャルの必須アイテムとなった。

 また、照明が薄暗いうえに男性客が中心だったゲームセンターに女性客が詰めかけるようになり、ゲーセンの雰囲気を一変させたのもプリクラの影響と言えるだろう。

 と、ここまでプリクラの説明をしてきたが、今回紹介するエピソードでは冒頭の一場面に登場するだけで、本編とプリクラは直接的には関係ない。そんなプリクラだらけの日誌に怒った部長は両さんを探すが、その姿は見当たらない。なんと両さんは6日間も有給休暇をとっているのだった。そのわけは──。

■シーン1

 場所は警察の寮。両さんの部屋か、左近寺の部屋か、コマに描かれた絵だけではどちらか判別できないが、とにかく二人はレースゲームに興じている。のちのコマで左近寺が手にするパッケージから、二人がプレイしているゲームのタイトルが『首都高速トライアル』だとわかる。これは、当時発売されていた『首都高バトル』シリーズ(開発はGENKI)をモデルにしたものと思われる。

 二人が有休を使ってまで夢中になっているのは、このゲームの全国大会が近いからだ。優勝商品はF50と副賞の1,000万円。ここで両さんが言っているF50というのは、フェラーリが創業50周年を記念して制作した「フェラーリ・F50」のことで、価格は日本円にして5,000万円。つまり、ゲームに勝てば総額6,000万円を手に入れることができる。そりゃあ両さんでなくたって必死になるというものだ。

 大会にエントリーしているゲーマーたちの成績をネットで調べてみると、上位にランクインしている6人は全員が1分19秒台を叩き出している。しかし、両さんは何度チャレンジしても1分20秒を切ることができない。これでは優勝どころかベスト3にも残れないだろう。

 正確なライン取り、ドリフトでコーナーに突っ込むタイミング、直線でのターボ加速、すべての操作が完璧なはずなのに、どうしても1分20秒の壁を超えられない。きっとコースのどこかにショートカットできるポイントがあるはずだと、両さんたちは必死に知恵を巡らせる。レースゲームに限らず、ゲームでスコア・アタックに挑戦したことのある人なら、“この感じ”はよくわかってもらえると思う。

104巻/P88/5コマ目
104巻/P88/5コマ目

 そんなとき、左近寺は過去に別のレースゲームでバグが見つかり大騒ぎになった例がある、と言う。何かの拍子にクルマが壁を飛び越え、コースをショートカット出来てしまったのだ。もしかして、このゲームにも似たようなバグがあるのでは? いや、これはトップメーカーの製品だからそんなはずはない。いやいや、発売されたばかりだからないとは言い切れないぞ……。

 そんな会話をしているうち、両さんはアルバイトでこのゲームのデバッグをしていたことを思い出す。

 デバッグとは、ゲームの開発中にプログラムのミスを探す作業のこと。開発者たちがデバッグするのは当然ながら、作業が多岐にわたるので開発者たちだけでは手が足りず、多人数でのデバッグをするためにアルバイトを雇うことも多い。ゲーム業界には、デバッグを専用に請け負う会社だってあるほどなのだ。

 デバッグの基本は、プログラムにおける処理オーバーの確認だ。レースゲームならば、逆走したり、壁にクルマをぶち当てたり、およそ考えられる限りの異常な行動を試してみる。プログラマーはあらゆる状況を先読みして、ゲームが正常に作動するようプログラミングしておくのだが、人間である以上、ミスすることもある。そこを突かれると、プログラムは正常な処理から逸脱して、おかしな挙動を見せてしまうことになる。それがバグというやつだ。

 両さんは、かつていろんなメーカーのデバッグに参加したとき、担当したゲームのひとつに、この『首都高速トライアル』も含まれていたと言う。その際に、不思議なバグに遭遇したことをぼんやりと思い出す。

104巻/P90/1~2コマ目
104巻/P90/1~2コマ目

 何かの拍子に首都高の側壁を飛び越え、隣のラインに移ってしまった気がするというのだ。そんな重大なバグを見つけたら、当然、開発元に報告するべきなのだが、両さんは徹夜明けで朦朧としていたため、そのまま報告せずに帰ってしまったというのだ。デバッガーとしては失格だが、いまそれを言っても仕方がない。むしろ、両さんが報告しなかったために、もしかしたら、そのバグはまだ残っている可能性がある!

■シーン2

 そうなれば、このバグを試してみるしかあるまい。当時の記憶を頼りに、両さんはコースを走ってみる。場所は下り坂のカーブ。坂の下まで来たところで一気にハンドルを切って逆走し、ターボを効かせて駆け上がる。なんでそんなことをしたのかといえば、坂をジャンプ台のようにして飛べるんじゃないかと、試してみたからだ。両さんらしい無茶苦茶さに思えるが、実際にデバッグの現場ではこういうことが当たり前のように試されている。

 で、改めてそのときの行為を再現してみたところ……飛んだ。

104巻/P91/1~2コマ目
104巻/P91/1~2コマ目

 さすがに動揺するふたり。気持ちを落ち着けてふたたび試してみると、やはり今度もコースを飛び移ることができた。バグチェックシートに記入するなら「再現性=◎」だ。

 この発見されたショートカットにより、コースの距離は約半分に短縮することができた。そのままアクセル全開でゴールへ飛び込むと、タイムは1分を切るどころか、なんとたったの36秒台である。ということは……。

104巻/P92/2コマ目
104巻/P92/2コマ目

 他のプレイヤーが1分20秒を切るのに苦戦しているのだから、36秒台で走り抜ける両さんの優勝は間違いない。勝利の前祝いとして、焼肉を食べに行こうと浮かれる両さん。寮にいた同僚たちにも「おごってやる」と声をかけている。この展開、もう悪い予感しかありませんな。

 勝利を確信している両さんは、それからまったく練習をすることもなく、婦警さんとプリクラを撮ったり、カラオケで熱唱したり、遊びまくりの日々を過ごす。

 そして、何度目かの(まだ勝ってないのに)祝勝パーティーでの席。特上寿司を囲んで警官仲間と大騒ぎしている両さんのところに、神妙な顔をした左近寺がやってくる。両さんしか知らないはずのバグ技が、ついに発見されてしまい、ゲーム情報誌にも掲載されているというのだ。

104巻/P95/3~4コマ目
104巻/P95/3~4コマ目

 それでも、他のゲーマーたちと条件が同じになっただけじゃないか、と言いたいところだが、そうはいかない。両さんが遊び呆けている間、上位にランクインしていた連中はバグ技を使ったうえで、さらに技術を磨き、なんと20秒台でしのぎを削っていたからだ。

 連日のパーティーですでに200万円も浪費してしまった両さんは、何が何でも勝たねばならない。明後日の大会までに、新たなバグを探さざるを得なくなる両さんなのだった。

■シーン3

 そして大会当日。丸2日間を徹夜してバグ探しに挑戦したが、結局、ショートカットできる方法は見つからなかった。会場に現れた両さんは睡眠不足でフラフラ。ただ勝利への執念だけで意識を保っている状態だ。

 そんな中、レースが始まった。両さんは後続車に向けてオイルを流したり、バックファイヤで引火させたり、反則ギリギリ……というか、まあ完全に反則な手段を駆使して上位を目指す。

 両さんはなんとかベスト5に残ることができ、かろうじて最終バトルにエントリーする権利を得た。狭い首都高のレーンで行われる激しいデッドヒート。とにかく優勝することしか頭にない両さんは、並走するライバルのクルマに幅寄せして、コースから弾き飛ばしてしまう。なんと卑怯なプレイ!

 だが、ライバルのクルマは……。

104巻/P100/1~2コマ目
104巻/P100/1~2コマ目

 下のレーンに着地して、当たり前のように走り続けている。新たなバグポイントの発見だ。ライバルの足を引っ張るつもりが、逆に有利にさせてしまった。我も我もと他のライバルたちが真似してジャンプを試みるが、どれもポイントがズレているのか脱落してしまう。ということは、このままでいれば2位に入賞するのは確実。だが、両さんにとって2位はビリになるのと変わらない。1位でなければ意味がないのだ。

 クルマの進む角度、ターボをかけるタイミング、そして正確なポイントを見極めて一気にジャンプする。見事、ショートカットは成功し、なんと両さん、本当に優勝してしまった!

 もちろん、それで終わるわけがないのは皆さんご存知の通り。両さんは賞品のF50に颯爽と乗り込むと、左近寺とともに実際の首都高をウイニングランするが、その脇を別のスポーツカーが煽りながら追い抜いていくではないか。カッとなった両さんは猛スピードで前をゆくクルマを追尾する。なんとか追いつく方法は……と考えるが、徹夜明けの頭で思考は朦朧とし、現実とゲームの区別が曖昧になっている。そうだ、次のコーナーでジャンプすればショートカットできるじゃないか、と思いついてしまうのだった──。

第21回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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