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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第19回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第103巻収録
「育て たまごっちの巻」

 今回登場する『たまごっち』とは、1996年にバンダイ(現バンダイナムコエンターテインメント)より発売された携帯ゲーム機だ。

 ゲーム機とはいうものの、『たまごっち』は一般的な携帯ゲーム機と違い、ソフトを差し替えて別のゲームを遊んだりすることはできない。卵型のゲーム機の中で生息するたまごっちの世話をする、そのためだけに特化したアイテムだ。発売以来、日本のみならず世界中でも大ヒットし、8000万台以上も売り上げたという。その人気は一過性のブームでは終わらず、様々なハードウェアに移植され続け、現在もスマホアプリなどで提供されている。

 2000年に生まれたうちの娘の初『たまごっち』体験は、5歳のときに発売されたニンテンドーDS用の『たまごっちのプチプチおみせっち』だった。この中に登場する「まきこ」というキャラクターがえらく気に入ったようで、当時、同居していた伯母(ぼくの姉)のことを、なぜかそう呼んでいた。

 これほど息の長い人気と影響力のあるゲームに、両さんはどのように対峙するのか。今回のエピソードが少年ジャンプ本誌に掲載されたのは1997年の初頭。まさに『たまごっち』が最初のブームを巻き起こしていた頃だ。

■シーン1

「ピピピ ピピピ」と、派出所内に何かの電子音が鳴り響く。誰かの携帯電話が鳴っているのかと思ったら、麗子がバッグの中に忍ばせている『たまごっち』だった。この時点ではまだ『たまごっち』のことを知らない両さんは、現物を見せられても「ポケベルじゃないのか?」などと言っている。麗子は「携帯型のコンピュータペット」という言葉で『たまごっち』を説明する。

103巻/P87/1~2コマ目
103巻/P87/1~2コマ目

 切手ほどのサイズの液晶画面の中に、丸っこいキャラクターが描かれている。麗子は両さんの前でエサをやったり、遊んであげたりしてたまごっちの世話をしてみせる。このように両さんに教えるという形で、たまごっちはお腹が減ること、エサをやると食べること、育て方次第で機嫌が変化することなど、ゲームの仕組みを読者にも伝えてくれているわけだ。

 麗子がたまごっちの世話をしていると、ふたたび電子音が聞こえてくる。今度こそ携帯電話かと思いきや、麗子はバッグから別の『たまごっち』を取り出した。なんと、交通課に勤務する婦警さんたちから預かったものだという。パトロール中に『たまごっち』をいじるわけにもいかないので、交番勤務の麗子が世話を代行しているのだ。まるで保育所である。

 ゲームや最新のホビー情報には誰よりも詳しいはずの両さんが知らなかったり、麗子をはじめとする女性陣が夢中になっていたりすることから、登場したばかり頃の『たまごっち』は子供や女性たちを中心に人気が広がっていたことがわかる。

 とはいえ、両さんは『たまごっち』的なものについてまったく無知というわけではないようだ。テレビで話題に上がっていたことは知っていたし、中川の「毎日育っていくのが見れますからね、たえず身につけてエサをあたえるわけですよ」という言葉で、即座にデジタルペットには前例があることにも触れている。

103巻/P89/6コマ目
103巻/P89/6コマ目

 つまり、『たまごっち』は突然この世に出現したわけではなく、それ以前からあったデジタルペットという遊びの、当時における最新型だったということだ。

 ここで、この分野の歴史を簡単におさらいしておこう。

 デジタルペットといってぼくが真っ先に思い浮かべるのは、『リトル・コンピュータ・ピープル』(1985年/アクティビジョン社)だ。コンピュータの中で生活している人間を観察するソフトで、プレイヤーは“彼”に水や食料を与えたり、遊びの相手をすることができる。人間を「ペット」と呼んでは申しわけないが、ゲームの仕組み的には間違いなくデジタルペットの条件を備えている。

 本来的な意味でデジタルペットの元祖と呼ぶにふさわしいのは、『パピーラブ』(1986年/アディソン・ウェズレイ・パブリッシング社)だろう。プレイヤーは、拾った黒い子犬をパソコンの画面の中で育てていく。いちおう、調教して芸を覚えさせ、コンテストでの優勝を目指すというゲーム的な目的はあるが、ペットとして可愛がるだけでも楽しさは損なわれない。

 以後、デジタルペットはパソコンから電子手帳、携帯ゲーム機、スマートフォンなどで綿々と生き続け、「育てゲー」という呼び方と共に一大ジャンルを築いていった。RPGの仕組みの中に育成要素を巧みに盛り込んだ『ポケットモンスター』(1996年/任天堂)は、世界でもっとも有名なデジタルペットと言えるかもしれない。

■シーン2

 麗子が少し留守にしている間、両さんがたまごっちたちの面倒をみることになる。麗子本人のものを含めて5つもあるから大変だ。

 ふと気がつくと、1匹のたまごっちが病気になっている。放っておくと死んでしまうので、治療してやらなければならない。注射器のマークがあることに気づいた中川が、これを打つのでは? と提案するが、両さんは「薬に頼ってはいかん!」と、せっかくのアドバイスを突っぱねる。そのかわり、栄養を与えるのがいちばんだとばかりに、ひたすらごはんを食べさせる。頑丈な両さんはそれで病気を撃退できるのかもしれないが、たまごっちにはそれでいいのだろうか……。

 デジタルとはいえ生き物なので、満腹すれば当然のことながら排泄──ウンチもする。

103巻/P91/1~2コマ目
103巻/P91/1~2コマ目

 どうやって片付けたらいいのかと困惑する両さんと中川だが、ちょうどそこに麗子が帰ってくる。アヒルマークが水洗ボタンになっていて、簡単にウンチを流すことができた。

 だが、それで安心はしていられない。さっきまで56グラムだった体重が、いつの間にか98グラムにまで増えていたのだ。もちろん両さんが見境なしにごはんを食わせたせいだ。「せっかくダイエットさせていたのに!」と本気で怒られる両さんの様子がおかしい。

 ここで両さんは、たまごっちの動く様子から懐かしいものを思い出す。「シーモンキー」だ。本コラムの読者には、たまごっち以上に説明が必要かもしれない。

 シーモンキーとは、通称「生きた化石」と呼ばれる生物で、エビやカニの仲間であるアルテミアを改良したもの。小さな卵は何十年もの長期間の乾燥に耐え、水に入れるだけで孵化する。1957年にアメリカで売り出されたものを、日本では1971年に株式会社テンヨーが発売した。40~50代の人にとっては懐かしのおもちゃ(?)だが、実はいまでも別のメーカーから販売されていたりする。

 そんなシーモンキーを育てていた記憶に刺激されたのか、両さんもたまごっちを1匹育ててみたいと言い出す。すると、中川は電子警察手帳にデジタルペット機能が付いていたことを思い出す。なんで警察手帳にそんな機能が入っているのか謎すぎるが、『こち亀』ワールドでは何が起こっても不思議ではない。

 両さんに促されるまま、派出所の面々は早速、育成をスタートさせる。両さんの電子警察手帳には、まだら模様の卵が映し出されている。メニューから「孵化」ボタンを押すと、いきなりペットの誕生だ。

103巻/P93/6コマ目
103巻/P93/6コマ目

 卵から出てきたのは、何やら目つきのよくないカラスのような鳥のヒナ。一方、中川の手帳に誕生したのは凛々しいトサカを備えた精悍な鳥のヒナ。どうやらこのデジタルペット育成ソフトは、手帳の持ち主の個人情報を数値化して、それをペットの外観や能力に反映させているようだ。

 両さんのペットは食い意地が張っている、鳴き声が汚い、体力のあり余った暴れ者といった性質の個体で、育て辛いことこのうえない。それにひきかえ、中川や麗子のペットは見た目も美しく、昼寝時も素直に眠りにつくなど、非常に育てやすい。ゲームの中のキャラクターが両さんの性格に引きずられているというのは、『こち亀』でゲームを取り上げた回ではおなじみの展開だ。

■シーン3

 さて、ゲームをしていて、自分が不利な状況になったときの両さんはどういった行動に出るか。そう、周囲を巻き込んでさらに被害者を増やそうとするのである。いちばん身近にいる中川と麗子が巻き込まれるのは当然のこと。その次に餌食となるのは本田か寺井で、今回は同じ派出所に勤務する寺井がターゲットだ。

103巻/P99/1~2コマ目
103巻/P99/1~2コマ目

 毎度毎度ひどい目にあわされることがわかっているのに、ニコニコ笑顔で対応する寺井は本当にいいやつだ……。

 その後、寺井だけでは収まらず、両さんは葛飾署に勤務する署員の手帳を借りては片っ端から卵を孵化させ、否応なしにゲームの輪を拡げていく。それは警察官だけでなく、部長や署長といった上司たちにもおよぶ。そんな両さんの行動はまるでコンピュータウィルスのようだが、ウィルス的なのはそのことだけではなかった。

 中川の手帳に新たに生まれた卵の様子がおかしい。殻のまだら模様は、明らかに両さんのデータから生成されたものだ。なぜ中川の手帳に両さんのデータが混ざったのか?

103巻/P103/4~5コマ目
103巻/P103/4~5コマ目

 警察署のパソコンを通じて両さんのデータが中川のデータに“感染”したのだ。結局、最後は葛飾署の署員たちすべての手帳の中で、両さん由来のペットがギャースカ、ギャースカ鳴きわめくという最悪の事態が発生するのだった……。ペットは責任を持って飼いましょう。

第20回へ続く

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