ファミ熱!!プロジェクト

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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第17回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第100巻収録
「ゲーム営業 両津!!の巻」

 テレビゲームを遊ぶ側の視点だけでなく、作り手側の視点から描かれることも多いのが、『こち亀』の特徴のひとつ。

 これまで『こちゲー』では、中川の経営するゲーム会社や、両津のじいさんのゲーム会社が登場するエピソードを紹介してきた。前者は「資金力のある大企業がゲーム業界へ参入」という、現実にもよくあることであり、後者は「アイデアコンテストへの応募がきっかけでゲーム開発者になる」という、これまた実際に例のあることをヒントにしている。

 そして、今回紹介する「ゲーム営業 両津!!の巻」には、なんと小学生たちによるゲーム開発集団が登場する。どうすれば子供たちがテレビゲームを作ることができるのか? そこに両さんはどう関わっていくのか? いつものように、まずは冒頭のシーンから見ていこう。

■シーン1

 派出所で携帯電話(ケータイ)が鳴っている。中川は自分のではないと言う。両さんも違う。麗子はマナーモードにしてあると言う。誰のでもないのなら、何が鳴っているのか? 鳴っているのは両さんのポケベルだった。

 ここで説明もなしに「ポケベル」と言われても、二十歳以下の若い読者はもうわからないかもしれない。スマホはおろかケータイすら普及していなかった時代に、数桁の数字やカタカナの短いメッセージを受信することができるカードサイズの端末だ。90年代の頭に女子高校生たちの間でコミュニケーションツールとして大流行したが、ケータイの普及にともないポケベルはその役目を終えた。

 というわけで、ここではまだ両さんはケータイとポケベルを併用している。その後のセリフで「インターネットでメールがわしに届いた知らせだ!」と言ってるから、常時接続ではないものの、ネット環境も整備されつつある時代、ということだ。

 ノートパソコンを取り出した両さんはモデムでネットにつなぎ、メールを確認する(モデムとはなんぞや? という話まで始めるとキリがないので省略)。

100巻/P30/1コマ目
100巻/P30/1コマ目

 メールは、電極+(プラス)からのものだった。プラスはスーパー電子工機というハイテク企業の社長の御曹司で、頭脳明晰かつ電子機器にも詳しいハイパー小学生だ。そんなプラスが、両さんに何やら相談したいことがあるという。

 と、そこへ今度は両さんのPHSに着信が(何でも持ってるなあ)。出てみるとプラスからで、さっきのメールを見たか、との確認だった。理知的なプラスにしては無駄な行動のように感じられるかもしれないが、常時接続が当たり前でない時代は、こうしてメールを送ったあとに電話で確認することも珍しくなかった。もっとも、いまでもそういう電話をかけてくる人はいるけどね。

■シーン2

 ふたりは中川の愛車フェラーリに乗ってプラスの家に向かう。両さんのサボりに中川も付き合わされるのは毎度のことだ。

 目黒区の高級住宅街に建つ電極家の屋敷は、昭和の香り漂う木造家屋で、まるで両さんの実家のようだった。本当にここが電極の家かと不安になっていると、スピーカーからプラスの声で呼びかけてきた。木製の引き戸は自動ドアで、庭の物干し台には追尾カメラまで設置されている。電極家、実は下町風を偽装したハイテク要塞なのである。

 玄関に足を踏み入れると、プラスのお母さんが出迎えてくれた。さらに、ペットの猫もやってきてニャ~ンとひと鳴き。

100巻/P32/6コマ目
100巻/P32/6コマ目

 ところが、この猫もコンピュータ制御のロボットなのだという。本エピソードが『少年ジャンプ』に掲載されたのは1996年で、ソニーがAIBO(アイボ)を発売したのは1999年。ペットロボットという考え方自体は昔からあるものなので、未来を予見していたというのは言い過ぎかもしれないが、マンガに描いてからたったの3年でペットロボットが現実化するというのは、さすがの秋本先生も驚いたことだろう。

 プラスの勉強部屋に案内されると、そこはやはりごく普通の和室。窓には鳥かごが吊るされている。玄関に置かれていた水槽の熱帯魚もロボットだったので、この鳥(インコ)もメカだろうと思ったら、こちらは本物だった。

100巻/P34/4~5コマ目
100巻/P34/4~5コマ目

 そんなプラスが両さんを呼びつけた理由とは、ゲーム会社に関することだという。このプラスくん、小学生でありながらゲーム制作会社S・E・S(サイバー・エレメンタリー・スクール)の社長なのだ。そして、プラスの勉強部屋はゲームソフトの開発室も兼ねているのだった。

 と、そこへプラスの同級生で、開発部長も務める藪中くんがやってくる。今日はこれからここで会議があるというのだが、他のスタッフはどこにいるのか。

 なんと、スタッフは日本中に散らばっているが、みんな小学生なので交通費がない。そこで、電話回線を通じてネット上で会議をするのだという。いまならオンライン会議も珍しいことではなくなったが、「交通費がない」という理由は斬新すぎる。

100巻/P36/6コマ目
100巻/P36/6コマ目

 さて、このようにして、並外れた頭脳とテクノロジーを駆使すれば、子供たちだけでもゲーム開発を行なうことはできる。だが、完成したゲームを全国流通に乗せるためには、大手メーカーと契約を結ばなければならない。そうしたときに、こちらが小学生だとどうしても舐めてかかられる。そこで、両さんに力を貸してもらいたい、というのだった。

 両さんは「よし!分かった、わしにまかせろ!」と安請け合い。プラスくんは天才なのに人を見る目がないのだろうか。読者の我々は不安しか感じない……。

■シーン3

 ところ変わって、ある大手ゲームメーカーの会議室。プラスと藪中くんが新企画のプレゼンをしている。

 女性にもアピールする企画内容が好評で、無事に契約締結となるところだったが、先方が版権を「わが社が全て買い取るという形で…」などと言い出した。「それは約束と違います!」とプラスがはねつけると、今度はロイヤリティの割合を変えようとする。やはり、相手は子供だからとタカをくくって、契約を自分たちの有利な形に持っていこうとしているわけだ。

 こんなこともあろうかと、プラスは外で待たせてある交渉担当を呼ぶ。

100巻/P41/1コマ目
100巻/P41/1コマ目

 なるほど、こういう役なら両さんはピッタリだ。相手は即座に態度を改め、当初の約束通りの契約を交わすことができた。

 契約を終え、帰りのタクシーの中。全国の小学生ユーザーを対象にしたアンケートの結果を見るプラス。彼らの一番の希望は、ソフトの価格を安くしてほしいということだった。プラス自身も小学生なので、その気持ちには共感できる。だが、ゲーム開発会社の社長としては、それが簡単ではないこともわかる。開発費がかさめば、それに連動して価格も上がってしまうのは仕方ないからだ。

 そのとき、両さんはある過去の例を思い出す。それは、ゲーム開発にスポンサーを付けて、ゲームの中に企業名や商品を登場させるというものだ。

 両さんは具体名を挙げていないが、そうしたソフトは実在する。1988年にファミコン・ディスクシステムの書き換え専用ソフトとして発売された『帰ってきたマリオブラザーズ』(任天堂)は、永谷園をスポンサーに付けることで、書き換え価格を少しだけ安くすることができた。

 この手法なら、こんど作るゲームも開発費も安く抑えられて、価格も安くできるだろう。プラスが乗り気になってくれたことで、両さんは広告代理店に話を持ち込む役を買って出る。さあ、読者の悪い予感が、次第に姿を見せはじめてきた……。

■シーン4

 最初はうまくいっていた。だが、お金が絡むと暴走しはじめるのが両津勘吉という男である。

 炎天下のもと、路上に各企業の宣伝担当者を集め、自販機で買ったホットドリンクを与えて正常な判断力を失わせ、強引な交渉を進めていく。ある企業の人間は言った。ゲーム中に映し出されるCMを拡大してくれれば契約料を倍にする、と。もちろん、それに飛びつく両さん。ただし、それはプラスたちには内緒だ。裏での密約で“これ”だぞと指でマネーサインを作ってみせる。

 元々、プラスたちは天才集団なので、ゲームの出来はいい。そのうえスポンサーを付けたおかげで価格も安く抑えられたから、ゲームは飛ぶように売れる。そうなると、ますますスポンサーを名乗り出る企業も増える。必然的に両さんの裏取引きも激化していく。

100巻/P45/3~4コマ目
100巻/P45/3~4コマ目

 もはやゲームをしてるんだか、広告を見せられているんだか、わからない。ゲームに広告を挿入するなら、ゲームの流れを損なわないようにするべきだ。それがアクションゲームなら尚更のこと。ゲームクリエイターなら気がついて当たり前のことを指摘するプラスたち。けれど、欲に目がくらんだ両さんはもう止まらない。いつものように破滅するまで突き進んでいくのだった。

第18回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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