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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第13回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第98巻収録
「電脳ラブストーリーの巻」

 今回は、コミックス第98巻のタイトルにもなっている「電脳ラブストーリーの巻」というエピソードを取り上げる。これはファミコンでもゲームセンターでもなく、パソコン用のゲームを題材にしたものだ。

 コンピュータゲームの歴史をイチから説明すると、何万文字書いても終わらないので、ここではあくまでもざっくりと、日本でコンピュータを使った遊び(ゲーム)が定着していく流れを簡単に説明しておこう。

 日本におけるゲームの人気は、まず『スペースインベーダー』などのアーケードゲームから火がつき、その後「ファミコン」に代表される家庭用ゲーム機によって一般層に定着していった。パソコンゲームもアーケードゲームが登場する頃からあるにはあったが、当時はまだごく一部のマニアのためのものでしかなかった。

 ところが、機材の低価格化やネットワークの発達によって、パソコンを所有するハードルは次第に低くなっていった。それまでは会社や家庭に1台あればいい方だったのが、当たり前に個人が1台ずつ所有する時代がやってきた。パソコンでゲームをすることも、珍しいことではなくなったのだ。

 パソコンが個人のものになると、そこで遊ぶゲームとの付き合い方もよりパーソナルなものになる。今回の「電脳ラブストーリーの巻」は、そうした事情を踏まえたエピソードと言える。

■シーン1

 理髪店で散髪中の両さん。伸びた髪をいつもの角刈りに切りそろえている。店主は、髪が硬くてハサミの刃がこぼれそうだよ、とボヤいているが、両さんは「わしの毛でタワシが作れるぞ!」などと言って気にしない。

 と、そこへ大きな段ボール箱を抱えた本田がやってくる。箱には「PC-9821」と書いてあるから、パソコンを買ってきたのだろう。それはわかるが、なぜ、散髪中の両さんへわざわざ見せに来るのか、謎の行動である。だが、両さんもそんなことは意に介さず、「さっそく派出所で遊ぼう!」と立ち上がる。

 職場で遊ぼうっていうのもおかしいし、派出所は普通の職場以上に規律が厳しい場所でもあるはずだ。たった12文字なのにツッコミどころだらけのセリフを吐いた両さんは、散髪を途中で切り上げて店を出ていってしまう。

 すぐに場面は変わっていつもの派出所の中。

 本田は、パソコンと一緒にパソコン用のゲームソフトも買ってきたと言う。タイトルは『学園伝説 キャンパス フェアリー』。パッケージには美少女のイラストが描かれている。本田は、このソフトを遊ぶためだけにパソコンを買ったのだ。

 たかがゲームのためにパソコンを買ったのですか? と驚く中川に対して、両さんは「冬のボーナス全部注ぎ込んだらしい…」と呆れ顔。しかし、読者のぼくらは知っている。両さんだってこれまでに何度も同じようなことをしてきていることを。

 それにしても、パソコンを買ったのなら家に配達してもらえばいいものを、なぜ本田はわざわざ両さんに見せに来たのか。実は、本田はパソコンの組み立てがよくわからないのだと言う。そこで、両さんにセッティング方法を教えてもらおうというわけだ。

 各機器を接続し、本体を起動させて、CD-ROMをローディング。マウスをクリックしてソフトを立ち上げると、無事にタイトル画面が出た。

98巻/P9/6〜7コマ目
98巻/P9/6〜7コマ目

 感激のあまり、おかしな奇声をあげる本田。いまさら説明するまでもないが、白バイ隊員の本田はハンドルを握ると鬼の形相に豹変するが、普段はとても気の弱い男なのだ。美少女ゲームに感激してうれし涙を流す姿は、いかにも本田らしい。

 さて、今回本田が買った『学園伝説 キャンパス フェアリー』──通称『キャン・フェア』がどういう内容のゲームであるかの説明は、両さんのセリフを引用してみよう。

「このゲームは、高校生活の中で好きな人をみつけて、卒業式に愛の告白を受けるというやつだ」
「この『キャン・フェア』は原型はパソコンソフトだったが、人気のためポピュラーなゲーム機用ソフトになり大ヒットし、さらにゲームボーイ、ゲームギアにまで移植されるという大人気ソフトだ」

 ということ。そして、ふたたびパソコン用にリニューアルされて発売されたのが、今回、本田の買ってきた「スーパーバージョン」だったというわけ。いわゆる「恋愛シミュレーション」と呼ばれるジャンルのゲームである。このあと、両さんが口にする「今日0時に全国一斉発売された! ウィンドウズ95並みの売れ方のソフトだ!」というセリフから、このエピソードが描かれたときの時代背景を感じることもできる。

■シーン2

 さて、ゲームを始めよう。まずは、どの女の子を攻略するかを決めなければならない。

98巻/P11/3〜4コマ目
98巻/P11/3〜4コマ目

 本田は初心者(ゲームにおいても、現実の恋愛においても)だから、おとなしそうなやつを選べと両さんは言う。その指示に素直にしたがい、杉村かおりさんというキャラを選ぶ。ところが、彼女がいきなり声をかけてきて、本田は狼狽する。自分の学校に登校して、クラスの女子と顔を合わせたなら、朝の挨拶くらいして当然と思うが、恋愛に慣れていない本田にとっては、これだけのことでもドッキドキなのだ。

 会話をするならコマンド選択式が一般的だが、このバージョンではより自由な会話ができるよう、完全対応式(キーボードでの入力)になったという。たどたどしくキーボードを操作して返事を入力する本田。すると彼女の態度は一転、「きらいよ!」と言われてしまう。いったい本田はどんな返事をしたのか?

98巻/P12/3〜4コマ目
98巻/P12/3〜4コマ目

 あわてて謝っても時すでに遅し。友人度、愛情度といったパラメーターが一気にゼロとなり、彼女は去っていった。出会って3秒で終了である。

 ゲームギア版の『キャン・フェア』ではいまのような会話で成功したのだと本田は言うが、それはソフトの容量が4メガしかないため、会話のデータもシンプルな構造だったからだ。しかし、今回のバージョンは620メガもの容量がある。会話データは膨大で、ゲームギア版とは比較にならないほどやりとりが複雑になっているのだ!(と両さん)。

 気を取り直して、次のキャラを選ぼう。こんどはツインテールがかわいい北原さん。程よくお世辞を交えながら会話をすることで、パラメーターはいい方向へ上がっていく。すると、彼女のほうから今度の日曜日にデートしようと誘ってきたではないか。「夢みたいだ!」と浮かれる本田。

 だが、ここで両さんから「待った」がかかる。両さんは、この誘いを「罠かもしれん」と言う。すぐに喰らいつくと軽い男だと思われてしまうだろう。ここは一旦は断って、二度目で喰いつくのがいいとアドバイス。

 言われるままに本田が「来週はダメなんだ」と入力してみると……なんと、北原さんは「じゃあいいわ! バイバイ」と去っていってしまう。またしてもフラれた! ゲームの達人の両さんといえども、どうも簡単にはいかないようだ。

■シーン3

 この『キャン・フェア』は、ゲームといっても恋愛シミュレーションである。恋愛経験の少ない本田がうまくプレイできないのならば、両さんだってその点では大差ないのだ。

98巻/P15/1コマ目
98巻/P15/1コマ目

 ひどい言われようである。しかし、こればかりは両さんも反論のしようがないだろう。

 それからは、中川がゲーム内ゲームのテニスをうまくこなしたり、女心のわかる麗子が適切なフォローを入れるなどして、本田の恋愛(ゲーム)は順調に進展していく。ところが、ここで大変な難関に遭遇する。彼女が好きだという『罪と罰』を、図書館で借りて読めと言うのだ。

 ドストエフスキーの『罪と罰』は、犯罪小説の古典である。文章の一部が引用されたコマの脇に「小泉 猛 訳」とあるから、おそらく秋本治先生が参照されたのは集英社の『世界文学全集〈44〉』ではないかと思うが、600ページを超える大長編だ。まともに読んでいたら一週間はかかるだろう。「クリックして飛ばせ!」という両さんのアドバイスに従い、ひたすら読んだふり。

 これでやっと先に進めるなあ、と安心しかけたところで、彼女から「どの場面が良かった? 具体的に教えて? 20秒以内に!」と容赦ないセリフが突きつけられる。本田、絶体絶命!

 すると、横で見ていた中川が「ラスコーリニコフが殺人へと向かう決定的な契機となった横丁で古着商人と老婆の妹との会話を偶然耳にするシーンと答えてください」と、あまりにも的確すぎる助け舟を出す。

 さあ、これで彼女との関係は一気に縮まった。パラメーターがどんどん上昇して、彼女の態度もぐっと親密さを増してきた。彼女は、友情の証として「モデムを付けてね」と言う。モデムというのは、パソコンを電話回線に接続するための装置だ(まだインターネットがない時代の話ですから)。

 こうして、画面の中の彼女と直に会話をすることができるようになった。相手は声優さんかもしれないが、それでも「本物の声だ〜〜」と感激する本田。その様子に、両さんは何かピンとくるものを感じたようだ。

98巻/P20/3〜4コマ目
98巻/P20/3〜4コマ目

 通話料金も心配だが、買い物を始めた彼女の行動も悪い予感しかない。案の定、このあと本田は言われるままにクレジットカードの番号を訊き出され、彼女のおねだり地獄に堕ちていく。

 本エピソードは、女の子の扱いに不慣れな本田が恋愛ゲームに翻弄されていくおもしろさを狙ったものだが、本田の弱々しいキャラで描かれているため、ちょっとインパクトに欠けるところはある。もしもこれが、過激な方の本田だったら、そのギャップによっておもしろさは倍増していたかもしれない。

 ということに、秋本先生ご自身もあとで気づかいたのではないかと感じさせるエピソードを、次回は取り上げてみたい。

第14回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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