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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第11回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第96巻収録
「ベンチャービジネスじいさん!の巻」

『こち亀』には、テレビゲームがよく登場する。そのおかげで、この「こちゲー」のような連載エッセイが成立しているわけだが、ただゲームを題材にして遊ぶだけでなく、ゲームを“作る”というエピソードも『こち亀』には何度か登場する。

 あらゆるエンターテインメントは、すべて人の手で作られている。マンガは、マンガ家が描き、小説は小説家が書く。音楽は作曲家やミュージシャンが作り、映画は映画監督や多くのスタッフが、俳優たちを使って撮る。そうした様々な作品に触れた者のうち、誰よりも強く刺激を受けた者は、自らもその作り手になるために、創作の世界に飛び込んでいく。エンターテインメントの世界は、こうした刺激の連鎖で歴史を作ってきた。

 数あるエンターテインメントのうち、もっともその創作へのハードルが高く感じられるのが「テレビゲーム」ではないだろうか。少なくとも、世の中にテレビゲームが登場した頃は、間違いなくそうだった。ブラウン管に映った光の点滅が絵を形作り、複雑な動きを見せ、ピコピコと音が鳴る。何をどうすればそんなことができるのか、大半の人にはわからなかった。だから、あくまでもゲームは遊ぶものであって、自分で作れるものじゃない。当時は、それが常識だった。

 ところが、時代を経るにしたがって誰もが当たり前のようにコンピュータを使うようになり、ゲームの仕組みがまったくのブラックボックスではなくなってきた。プロのゲーム開発者でなくとも、個人レベルでゲームを組んでしまえる若者が登場するようになった。インターネットの普及もゲーム開発のハードルを下げることに大きく寄与したはずだ。いまでは、ゲーム開発者を目指す若者のための専門学校さえある。ゲームを作る人になることは、職業選択のひとつとして定着したのだ。

 両さんが学校でゲーム開発を習った、という話は聞いたことがないが、この連載の第8回で取り上げた「人生をやり直せ!の巻」では、両さんのアイデアを元に作られた『未来ゲーム』なるものが登場する。そもそも中川がゲーム開発会社を所有しているわけだから、『こち亀』の中でもゲームを作るハードルは案外低いと言っていいだろう。

 さて、今回取り上げるエピソード「ベンチャービジネスじいさん!の巻」では、誰がゲームを作るのか? ……まあ、タイトルを見れば、じいさんなのは丸わかりだが。

■シーン1

 町内会の役員らしき人が派出所に相談にやってくる。どうやら独り暮らしの老人が、一ヶ月も部屋から出てこないという。現実にもよくある話だ。独居老人がいつのまにか孤独死していたというニュース。

 アパートの管理人といえども、勝手に合鍵で部屋を開けるわけにはいかない。ましてや、中で住人が生き絶えていたりすると、非常にまずいことになる。そこで、警察官にも立ち会ってほしいというわけだ。

 話を受けた中川は、さすがに自分一人では心細いと思ったのか、先輩である両さんにも同行をお願いする。それに対して、「ビクビクするんじゃない!」「大都会の孤独の死は防ぎようがない!」と言い切る両さん。死体を目撃してしまうかもしれないことなど、まったく恐れていない様子だ。

 全員でアパートの前まで来た。不安がる管理人たちだが、まったく動じない両さんに背中を押され、思い切ってドアを開ける。

 すると……室内には誰もいなかった。部屋が荒れている様子もない。「宇宙人にさらわれたのかな?」などと適当なことを言っていると、ちょうどそこに住人が帰ってきた。なぜかフェラーリに乗って。しかも、運転しているのは両津勘兵衛(両さんの祖父)だ。

 事情を聞いてみると、この部屋の住人は、勘兵衛と一緒に一ヶ月ほどロサンゼルスまでゴルフ旅行をしてきたという。どうして年金生活者の老人たちが、そんなに豪勢な旅行をすることができたのか。まさか泥棒でもしたのでは……と疑う両さんに勘兵衛が見せたのは、1本のゲームソフトだった。

96巻/P70/3〜4コマ目
96巻/P70/3〜4コマ目

『ファイティング・ゲートボール』と題されたそのパッケージには、R.G.C.というゲーム開発会社の名前が書かれている。そこは両さんもよく知ってるゲームメーカーだが、なんと、リョーツ・ゲーム・カンパニーといって、勘兵衛の所有する会社だったのだ。

 じいさん曰く、愛読しているゲーム雑誌のゲームアイデアコンテストに「盆栽」や「ゲートボール」を題材にしたゲームを作って応募したら入賞。販売権を500万円で売却し、そのお金を元手に会社を興し、日々新しいゲームを開発しているのだという。

 老人向けのゲームばかり作っているなという両さんの指摘に対して、勘兵衛は違うソフトを取り出してみせる。

96巻/P71/3コマ目
96巻/P71/3コマ目

 学園シミュレーションの『美少女学園 入学』である。これも『こち亀』内での架空のゲームだが、パッケージの絵をみると『ときめきメモリアル』や『卒業 〜Graduation〜』を思わせる絵柄で、いかにも美少女ゲームという感じだ。

 企画した勘兵衛はこのとき105歳。キャラクターデザインは『のらくろ』で知られる田河水泡先生のアシスタント経験があるという足立くん90歳。開発スタッフの平均年齢は88歳だそうで、たいへんなじいさんたちがいたものである。

■シーン2

 勘兵衛じいさんの経営するR.G.C.では、最新ハードに向けて作られた3Dのゲームソフトまであるという。なぜ、それほどまで技術に詳しく、業界動向をも見据えているのだろうか。

96巻/P72/5コマ目
96巻/P72/5コマ目

 盆栽やゲートボールといった年寄り向けのゲームを作っているくせに、勘兵衛自身はそんなものを趣味にするつもりはないようで、スポーツはテニスとラクロスをやっているとうそぶく。まったく年寄りらしさのない勘兵衛だが、中川に言わせると「先輩(両さん)も80歳になってもファミコンをやってますよ」とのこと。ぼくも中川に同感だ。

 ところで、会社はいったいどれくらい儲かってるのか。両さんが軽い好奇心で聞いてみると、勘兵衛は「年商8,000万円くらいかな」とあっさり答える。ゲーム会社の売り上げとしては決して大きな金額ではないが、社員はわずか5人で、年金生活者ばかりであることを考えれば、じゅうぶん大儲けしていると言えるだろう。

 そろそろ会社に戻るという勘兵衛に、必死に食らいついていく両さん。儲け方のノウハウを教えろ、というわけだ。

 両さんを乗せたフェラーリは、高層ビル群が立ち並ぶ東京湾の埋立地を駆け抜ける。目指すR.G.C.の本社は月島にある。さぞかし立派なビルに入居しているのだろうと思いきや、着いたのは長屋の前。ウォーターフロントにまだこんな建物が残っていたかと驚かされるが、引き戸を開けてみればさらに驚愕の風景が広がっていた。

96巻/P74/3コマ目
96巻/P74/3コマ目

 畳敷きの和室に座卓が数台。パソコンに向かって黙々と仕事をするじいさんたち。エアコンなどなく、窓は開け放たれて風鈴が揺れている。

 グラフィッカーの広井伝ェ門さんは78歳、プログラマーの森田吾作さんは84歳。普通、プログラマーはキーボードの脇に関数電卓を常備しているものだが、こちらのプログラマーはそろばんを使っている。こうした和洋折衷、時空の歪み、極端な落差によるおもしろさは、まさに『こち亀』の真骨頂だ。

■シーン3

 会社経営が好調となれば、当然のことながら税金の心配もしなければならない。節税はどうしているかとの中川からの問いに、勘兵衛は窓をガラッと開けて外の水路を示す。そこには豪華クルーザーが停泊していた。50フィートクラスの大型船で、台湾で新造してもらったのだという。

 そんなものを買って操縦はできるのか? と疑問を抱く両さんに、勘兵衛は答える。「わしは海軍にいたからな」と。

 勘兵衛は整備兵として空母「飛龍」に乗船し、真珠湾攻撃にも参加した経験を持つ。整備兵だったということは、当時のレシプロ機なら操縦ができるということで、おまけにイ号潜水艦にも乗ったことがあるので、潜水艦も動かせるという。両さん、思わず「007みたいなじじいだ…」とつぶやく。

 勘兵衛の戦争思い出話が長引き、そろそろ派出所へ戻らなければならない時間となった。ここで「わしが送っていこう」と言うので、また勘兵衛がフェラーリに乗せてくれるのかと思ったら、そうではなかった。例のクルーザーで水路を進むのだ。

 月島から勝鬨橋をくぐって一旦東京湾へ出る。ぐるりと荒川方面へ回り込んだら、荒川河口から支流の中川へ入り、そのまま遡行して亀有へ向かうというコースだ。このほうが地上を走るよりもよほど早いという。

 いまでこそ、東京は道路網や鉄道網が縦横に張り巡らされているが、江戸時代には水路が重要な輸送路して使われていた。このあたりの描写からは、そんなことを感じさせてくれる。

96巻/P82/4〜6コマ目
96巻/P82/4〜6コマ目

 水面を疾走する船上。両さんが軽い気持ちで「ブレーンとして使ってくれよ」と頼んでみると、じいさんは経営すらも任せていいと言う。本気か冗談か。勘兵衛はまさかの本気だったようで、両さんは実際に経営を受け継ぐことになる。ところが……まあ、最後はロクな結果にならないことは、皆さんご承知の通り。

第12回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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