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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第8回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第92巻収録
「人生をやり直せ!の巻」

 今回取り上げるエピソードは「少年ジャンプ」1994年50号に掲載されたもので、「人生をやり直せ!」というタイトルが示すように、人生シミュレーションを題材にしている。

 これまでゲームといえば、宇宙人と撃ち合いをしたり、迷路をさまよったり、カーレースをしたりというようなものが主流だった。ところが、コンピュータの性能が上がるにつれて、ゲームの表現力は豊かになり、複雑なデータを扱うこともできるようになった。そうして生まれたジャンルのひとつが「シミュレーションゲーム」である。

 まずはよくある日常の風景から始まる。派出所のコピー機が壊れたと困惑する麗子に、両さんはちょっと調べただけですぐに問題点を見つけ、解決してみせる。メカは得意な両さんだから、これくらい朝メシ前だ。

 そこまでは良かったのだが、すぐに調子に乗るのが両さんのいけないところ。「説明書をよく読め!」「まったく愚か者というか…」とガミガミ叱りつけ始める。そして両さんがいい気になっていると、お約束のように登場するのが大原部長。逆に散々お小言を食らってしまうという展開だ。

 毎度自分のダメっぷりに歯ぎしりをしているところに、颯爽と現れたのは中川。「先輩! ついに試作が完成しました」と言うその手には、何かを持っている。

■シーン1

 中川が持ってきたのは、『未来ゲーム』と題するパソコンソフトだった。パッケージには「新しい占いゲーム! リアルシミュレーション」と書かれている。「あなたの未来がゲームに!」とのキャッチコピーも見える。

92巻/P77/1〜2コマ目
92巻/P77/1〜2コマ目

 急に活き活きとし始める両さん。ここまでのセリフから、おそらく両さんがアイデアを出して、中川の会社に開発させたのであろうことが想像できる。そりゃあ嬉しくなるのも無理はない。

 よく事情が飲み込めないでいる部長に、これはパソコンゲームの革命なのだ、自分を育てるゲームなのだと、ものすごい勢いで説明し始める。両さんは、過去の例として「パソコンゲームで女子高校生を育てるゲームがあるでしょう」と言うが、もちろん部長がそんなものを知っているはずはない。

 いちおう説明しておくと、ここで両さんが言っているのは、おそらく1992年にジャパンホームビデオより発売された『卒業 〜Graduation〜』のことだろう。プレイヤーは名門女学校の教師となって、3年生の女子生徒を卒業まで導いていくというものだ。パソコンゲームとしてはかなりのヒット作となり、いわゆる“ギャルゲー”という大きなジャンルの中でも重要なポジションを占めている。

 それはさておき、問題はこの『未来ゲーム』である。両さん曰く、かつてビデオデッキの普及率が急速に伸びたのはなぜか? それは“お下劣ビデオ”の力なのだという。部長のようなメカ音痴も、エッチなビデオ見たさのあまり無理して買いまくった。それがビデオデッキの普及に拍車をかけたのだと。

 そうすると、パソコンだって同じこと。メカ音痴を振り向かせるにはお下劣パワーが必要で、いまや美少女物のソフトが牽引力となって、パソコン人口が増えてきている。それはそれで重要なことだが、このソフトは「お下劣レス」つまりイヤラシくない正統派のゲームなのだという。

 正統派だから売れるのかといえば、そうとは限らないが、両さんはなぜか自信満々だ。何しろ、このゲームの開発には20億円もかけているというのだから(お金をかけたのはあくまでも中川の会社であって、両さんではないと思うが……)。

 とにかく「一度やってみましょうか」と中川。いつの間にか派出所内のデスクには、パソコンと周辺機器一式がセッティングされている。

92巻/P79/3コマ目
92巻/P79/3コマ目

 分厚い箱形のPC本体の上に乗ったブラウン管のモニタと、複数のディスクドライブ。左右には外付けスピーカーがあり、あとはキーボードとマウス。周辺機器などほぼ一体化されているのに慣れたいま見ると、非常に懐かしい光景だ。

 CD-ROMを読み込ませ、プレイヤー(ここでは両さん)の個人データを入力し、ゲームのキャラクターをメイキングする。すると、画面には両さんの名前、血液型、身長、性別などの個人データと共に、ドット絵で描かれた姿(両さんの分身)も映し出される。最近の言葉で言えば「アバター」というやつだ。

■シーン2

 このシミュレーターがどれくらい精巧にできているかというと、たとえば両さんの前にお金を落とす。すると、大方の予想通り両さんはお金を拾って、自分のフトコロに隠してしまう。そこへ部長が登場してネコババ行為を咎めると、両さんは言いわけをし始める。

92巻/P80/3〜4コマ目
92巻/P80/3〜4コマ目

 悪さを見つかったときの反応が、いつもの両さんとほとんど同じ。なぜこうなるかというと、厚さにして5センチはありそうなアンケートの束に両さんが答えたからだ。性格テストや、基本行動の選択など、アンケートを通じて両さんの考え方や判断基準を抽出し、そのデータをコンピュータに入力する。それを元にして、ゲーム内のキャラクターが動いているというわけだ。

 通常、テレビゲームでは物語の分岐点に差し掛かったとき、どちらの道筋を選択するのかはプログラムが乱数で決定するか、あるいはプレイヤーの行動によって変化していくのが一般的だ。しかし、この『未来ゲーム』では、入力したその人の“心”をデータ化するので、たとえば自分らしくない判断をしても、コンピュータが本来の考え方や運命に沿うように結果を修正していってしまうのだ。

 両さん、自分の幸福度を上げようと、ゲーム中で結婚を試みる。画面には候補者として数タイプの女性が表示される。本来なら、それぞれの性格や趣味などから自分と相性のいい女性を選ぶべきものだが、両さんは何も考えず好みの顔の女性を選ぶ。すると、結婚したはいいものの、たったの一ヶ月で離婚。幸福度はあっという間にゼロになってしまった。

 さらに警察をリストラされて無職になり、やけになって銀行を襲って現金輸送車も襲撃し、どんどん悪の道へ突き進む。挙げ句の果てにはゲームオーバーだ。

92巻/P83/5〜6コマ目
92巻/P83/5〜6コマ目

 いくら自分の人格から導き出された結果だとはいえ、あんまりな仕打ちにさすがの両さんもキレる。「わしだけ悲惨過ぎるぞ、全員で参加しろ!」という訴えに、派出所のみんなもゲームに参加させられることとなった。

■シーン3

 両さんはそうとう悔しかったのだろう、中川や麗子には[貧乏]からスタートさせろ、と無茶を言う。「産まれながら大金持ちなんて1位が決まってる様なもんだろ」と。そのくせ自分は「わしは現実が貧乏スタートだから[金持ち]から始める」とわがままを言う。

 かなり自分に有利な条件でゲームをスタートさせるが、コンピュータの判断は冷徹だ。ある意味で現実より厳しい結果が待っていた。

92巻/P84/7〜8コマ目
92巻/P84/7〜8コマ目

 両さん、せっかく豪邸に生まれるところからスタートしたにも関わらず、いきなり父親の会社が倒産して一家離散である。その後、警察官になる道を避けて普通の会社に就職するが、給料の未払いや経営陣の夜逃げといった目に遭い、やはり幸福度はゼロに。

 一方、他のメンバーはどうなるかというと、貧乏からスタートした麗子は、生まれながらの美少女なので、いきなり有名映画監督の目に止まってハリウッドに進出。さらに頭の良さをかわれて米国外務省へ勤務。あれよあれよという間に大金持ちになってしまった。

 並みの貧乏ではラチがあかないと考えた両さんは、中川のスタートを土管の中で生活している状態に設定。すると、そこへお金持ちのロールスロイスが通りかかり……。これじゃダメだと両さんは設定を変更。海で漂流しているところに設定すると、そこへ大富豪の豪華船が通りかかって……と、何度やっても運命が好転していく。

 つまり、現実に(マンガですけど)大金持ちの麗子や中川たちは、どんなに不幸な状況からスタートさせてもどんどん幸運を呼び寄せていき、現実で(だからマンガなんですけど)貧乏な両さんは、どんなに幸福な状況からスタートさせても不幸になってゆく。人間の運命はそう簡単には変えられないという命題が、このエピソードからは読み取れるのである。

 さて、ここで「公園でケンカが発生している」との通報があり、両さんはその処理に出かけて行く。すると、ゲーム内の状況にも変化があらわれ始めた。なんと、大原部長がいつのまにか警部に昇進していたのだ。

 これはどういうことかというと、両さんがゲームから抜けたために、部長は両津と出会わなかった人生を歩み始めた。その結果、部長の運命も次第に好転していったのだ。さらにシミュレーションを進めてみると、ダメな部下に足を引っ張られることがなくなった部長は、警部から警視へ、警視から警視正へと、ぐんぐん出世の階段を登っていくのだ。

 さらに、白バイ隊員の本田の人生を見てみれば、あくまでもゲームの中ではの話だが、彼も着実に出世して交通機動隊の本部長になり、結婚してマンションも購入し、幸福な家庭を築いている。しかし、現実の本田は両さんと出会ってしまったがために……。

92巻/P88/3〜4コマ目
92巻/P88/3〜4コマ目

 はからずも、ゲームを通じて両さんが不幸の元凶であることが明らかになってしまった。このソフトを作った中川も、さすがにバツが悪そう。「このゲームはリアル過ぎて、人間不信になるから市販するのはやめよう」と決断する中川なのだった。

第9回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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