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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第7回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第89巻収録
「夢のドライブゲームの巻」

 秋本治先生の趣味が多分に反映されているのか、『こち亀』には数々の名車やスーパーカーが登場する。それらは華麗な疾走シーンを見せてくれるばかりか、激しいデッドヒートを繰り広げたり、しまいには派手にクラッシュすることも珍しくない。

 そんな『こち亀』だから、レースゲームとの相性はバッチリだ。今回取り上げるエピソード「夢のドライブゲームの巻」では、当時最新のレースゲームに両さんが挑戦する様子が描かれている。

■シーン1

 まずは、麗子の愛車・ジャガーXJ220に乗せてもらった両さんが、どこかへ急いでいる場面から始まる。両さんは「もっと急げ!」「先に取られてしまうぞ!」と、なにやら随分と焦っているようだ。いったい何を取られるというのか、麗子はわけがわからない。

89巻/P126/1コマ目
89巻/P126/1コマ目

 やっと現場に着いてみると、そこはゲームセンター。どうやら、両さんが目指していたのは、最新型のレースゲーム機だったようだ。アーケード(ゲームセンター)用ゲーム機の世界では、コックピットを備えた大型筐体によるレースゲームは人気が高く、古くは『ポールポジション』('82)、『アウトラン』('86)、『バーチャレーシング』('92)など、いくつも作られてきた。両さんは、その最新機種でいち早く遊ぶために急いでいたというわけだ。「やった、2台空いてる」と店内へ飛び込んでいく両さん。すると、いきなり背後からの銃撃。いったい何事か!? と振り返ってみれば、御所河原組の皆さんである。

 御所河原組というのは、両さんの行く先々にちょいちょい現れる、何かと因縁の深い御一家だ。いわゆる裏街道を歩く職業の人たちではあるが、一般市民に気を使う側面もあったりして、根っからの悪党というわけではないらしい。

 それはともかく、両さんの前に姿を見せた組員曰く「そこは組長の席だ!」とのこと。なるほど、ゲーム筐体のドライバーシートには「御予約席」なんて札が置かれている。

89巻/P127/3コマ目
89巻/P127/3コマ目

 両さんが「ゲーム機に予約などあるか!」と憤慨しているところに、悠然と組長の御所河原大五郎が登場する。手には、クレーンゲーム機でキャッチしてきたのだろう、美少女フィギュアを持っている。この組長、アニメ『ムーンファイブ』グッズのコレクターなので、おそらくそのキャラクターだと思われる。

■シーン2

 さて、話の流れからいって、当然のことながら「ゲームで勝負しよう」ということになる。たとえ相手がヤクザの親分でも、ゲームのことなら負ける気がしない両さんだが、相手の方はそういうわけにはいかない。組長自らハンドルを握って、もしも惨敗でもしたら組の名前に傷がつく。

 そこで、まずは組員の中からゲームの得意な人物を前に出す。その名も「ゲーセンの竜(たつ)」だ。

89巻/P127/6コマ目
89巻/P127/6コマ目

 やくざと警官がレースゲームで対決するとあって、ゲームセンターに来ていたお客さんたちは大騒ぎだ。二人の周囲に続々とギャラリーが集まってくるが、両さんは「多い方が盛り上がる」と、まったく意に介さない。さすがの余裕である。

 家庭内でゲームを遊ぶのと違って、ゲームセンターというのはオープンな場だ。『スペースインベーダー』が大流行したときは、いち早く“ナゴヤ撃ち”を習得したプレイヤーの周囲にはギャラリーが集まったものだし、のちに『ストリートファイター II』などの対戦格闘ゲームが登場したときも、やはり熱戦を繰り広げるプレイヤーの周りには人だかりができた。スーパープレイヤーとそれに声援を送る観客。これこそがゲームセンターの醍醐味なのだ。

 両さんとゲーセンの竜によるレース。スタートと同時に両さんの駆るマシンが一気に前へ出る。これは相当やり込んでいる様子だ。一方、あっというまに差をつけられた竜は、必死に追い抜こうとするが、巧妙に進路をブロックする両さんに邪魔をされ、どうしても前へ出ることができない。

 怒った竜は、「伊達にベンツ10年間運転してねえぞ!」とばかりに猛追し、両さんのマシンに自分のマシンを叩きつける。何しろこの男、御所河原組のハンドルを預かっているわけだから、普段から黒塗りの頑丈なベンツで渋滞もなんのその、周囲の車を蹴散らしてきたのだろう。

89巻/P129/5~6コマ目
89巻/P129/5~6コマ目

 だが、その荒っぽい仕打ちが両さんのゲーマー魂に火をつけた。「もう手加減はせんぞ!」と、アウトから一気に抜き去ると、後続車(竜)の直前で急ブレーキ。慌てた竜は追突を避けて急ハンドルを切り、スピンしながらコースアウト。そのまま両さんは猛スピードでゴールへ突き進んでいった──。

■シーン3

 竜をぶっちぎって軽々と優勝を決めた両さんだが、「新型機だからもう少しましかと思ったが……」などと、何やら納得がいってないようだ。とは言いながらも、このゲームにおける走りのコツを対戦相手に教えてあげるなど、ゲーマーとしてはフェアネスの精神を持ち合わせている。

89巻/P131/6コマ目
89巻/P131/6コマ目

 さすがは遊び人の両さん。横で見ていた麗子も、いつになく感心している。すると両さんは、ゲームをするとき子供はただ遊ぶが、大人は頭を使って遊ぶのだと、得意そうに語る。

 両さんとレースゲームとの付き合いは長い。自称「東京大阪間を制覇した男」だと言うのだが、それはどういうことかというと、昭和30年代に流行したドライブゲームで、東海道を東京からラストまで走破したことがあるというのだ。

89巻/P132/3~4コマ目
89巻/P132/3~4コマ目

 デパートの屋上などに設置されていたこのゲーム機、ぼくも子供の頃によく遊んだものだ。しかし、上に掲載した図版を見てもらえばわかる通り、テレビゲームとは違って、ゴムベルトに描かれた道路の上を、ハンドルと連動したミニカーを走らせるという非常に原始的なものだ。

 蛇行する道路の形状に合わせて、ハンドルを右に切ればミニカーは右へ、左に切れば左へ動く。そうやって先へ先へと進めるわけだが、大勢の子供たちが遊んでいるせいか、たいていのゲーム機は調整が甘くなっていて、思ったようには動いてくれない。これでラストまで走りきったというなら、やはり両さんのゲームの腕前は並はずれたものがあると言っていいだろう。

 と、両さんが自分のレースゲーム遍歴を自慢しているところに、聞き慣れた声の人物がやってくる。非番の中川だ。

■シーン4

 一緒にいるのは、中川のケンブリッジ大学時代の恩師・絵崎コロ助教授だ。実はこのゲームセンターは中川の会社の系列が経営するアミューズメントパークで、奥の研究室では新型のドライブゲーム機を開発しているという。「よかったらご覧になりますか」などと言われたら、そりゃあ見ないわけにはいかない。

89巻/P133/4コマ目
89巻/P133/4コマ目

 見ての通り、これはゲーム機というより、もはやドライブシミュレーターである。原寸大のF1マシンを模したコックピットと、その正面には視界180度を覆うようにモニタースクリーンがある。さらに、速度に合わせてエンジン音、振動、吹きつける風までもが再現されるというから、昨今の4DX上映を先取りしたようなゲームマシンだと言えるだろう。

 他にも、この研究室ではバギーやラリーカーも用意してあり、ソフトウェアを入れ替えれば、様々なドライブが楽しめるという。すべて実写を揃えているというあたり、さすがは中川の会社である。『こち亀』では、ひとつのアイデアがどんどん大袈裟になっていくパターンが多いが、かなりの部分でその原因を担っているのは中川の存在かもしれない。

 この実写が揃っている様子を見て、意外に冷静な両さんが、ポツリとつぶやく。「でも、大がかりすぎて場所を選ぶな」 そうなのだ。ここは中川の会社だからいいものの、実写で体験するドライブゲームを導入できるゲームセンターなど、そう多くはない。そこでコロ助教授が開発したのが、「コンパクト型VR(バーチャルリアリティー)ドライブゲーム」だ。

89巻/P137/7~8コマ目
89巻/P137/7~8コマ目

 使用するのはフルフェイスのヘルメットと、ハンドルのみ。このヘルメットがVRゴーグルになっているため、かぶってハンドルを握れば、どこでも大迫力のレースが楽しめるというわけだ。 その後、両さんはどうせなら「車に乗りながらやりたい!」などと言い出し、調整中だったF1マシンに無理やり乗り込んで、思いっきりアクセルを踏む。すると、本人はヘルメット内部の画像を見ているため、その場でゲームをしているつもりだが、実際にはマシンのエンジンを吹かして町へ向かって走り出し……というハチャメチャな展開になっていく。

 ちなみに、このエピソードが「少年ジャンプ」に掲載されたのは1994年のこと。それから5年後に発売された当時の最新技術を詰め込んだレースゲーム『グランツーリスモ2』(プレイステーション)には、このエピソードの冒頭で麗子が乗っていたジャガー・XJ220も登場するのだった。

第8回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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