ファミ熱!!プロジェクト

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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第6回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第84巻収録
「ファミコン攻略法 教えます!の巻」

 この連載では『こち亀』にテレビゲームが登場するエピソードを追いかけて来ているが、ここまでに登場したのは『スペースインベーダー』『ドンキーコング』『ディグダグ』(他にはクレーンゲームなど)というように、ゲームセンターに設置されるゲーム(それらは一般的にビデオゲームと呼ばれる)が中心で、ファミコンのソフトは登場していない。

 ファミコン本体が発売されたのは1983年の7月15日で、発売当初は世間の注目度もそれほど高くなかっただろうから、『こち亀』で採り上げられていなかったとしても不思議ではない。しかし、1985年9月13日に『スーパーマリオブラザーズ』が発売されると、その人気は急速に広がり始め、翌年にはファミコンの大ブームが巻き起こる。

 そのブームを受けて「少年ジャンプ」本誌ではファミコンの情報ページ『ファミコン神拳』の連載が始まるわけだが、まだこの段階でも『こち亀』にファミコンが登場することはなかった。ようやく『こち亀』に“その言葉”が登場したのは、1993年18号の本誌に掲載された「ファミコン攻略法 教えます!の巻」である。

 物語は、葛飾署で署長を勤める屯田五目須(とんだごめす)の自宅から始まる。署長の三人いる息子たち夫婦は子供をおじいちゃん(署長)宅に預けて、それぞれ海外旅行へ行ってしまった。孫には甘いおじいちゃんということで、預けられた子供たちは大暴れ。甘やかしつつも困惑する署長なのだが……。

■シーン1

 たくさんいる孫のうち、二人の男の子が何かの謎が解けずに困っている様子。「おじいちゃん、知ってるかな?」「絶対知ってるよ!」などという会話が耳に入る。嬉しさのあまり「おじいちゃん、何でも知ってるぞ」などと知ったかぶってはみたものの、実際に投げかけられた質問はゲームに関するものだった。

84巻/P68/3〜4コマ目
84巻/P68/3〜4コマ目

 ここで注目すべきは、おばあちゃん(署長の奥様)のセリフだ。『ファイナルファンタジーV』(以後、FFV)のことを聞かれて、それがなんだかわからず戸惑う署長に、おばあちゃんは「ファミコンの事よ!」と教えてくれる。読者の皆さんは当然おわかりのことと思うが、『FFV』はスーパーファミコン用のソフトであって、ファミコン用ではない。

 とはいえ、これを間違いだと指摘するのは早計だ。あの頃、ファミコンとスーファミの区別がついていない母、オカン、ばーちゃんはたくさんいた。スーファミも、セガマークIIIも、PCエンジンも、メガドライブも、ゲーム機は全部「ファミコン」と呼ばれてしまうことは非常に多かったのだ。そんな時代のひとつの風景がここにある。

 さて、『FFV』に登場する「もの知りじいさん」の居場所を尋ねられた署長だが、当然、それを知るはずがない。ところが、その言葉自体はどこかで聞いた覚えがあるようだ。必死に記憶を探っていくと、以前、署内で両津が若い警官たちと雑談しているところに通りかかったときのことを思い出した。そのとき両津が言っていたのは「まだ海の中で行ってないところがある」という言葉だった。

 真剣な表情で答えを待つ孫に、署長は静かに答える。「それはな、海の中を調べた方がいいと思うぞ」と。

 しばらくすると、孫たちは大喜びでやってくる。おじいちゃんの言う通り、海の中で「もの知りじいさん」を発見できたのである。署長は一気に孫たちの尊敬を集める。まるで自分自身がもの知りじいさんになったような気分だ。

 このとき、「人から聞いた」と正直に言っておけばよかったのだ。でも、尊敬の目で見つめる孫たちの手前、つい本当のことを言いそびれてしまった。これが、のちの悲劇を生む。

 すっかりおじいちゃんを頼りにする孫たちは、続けて「オメガの倒し方」を聞いてくる。オメガってなんだ? おじいちゃんが知らないのは当然として、実はこのエッセイを書いてるぼくもわからない。『FFV』は発売当時すぐに買って遊んだはずなのだが……。

 調べてみたところ、オメガというのは「ラスボスを遥かに凌ぐ強さのモンスター」だという。そういえば、そんなのいた! 出会ったとき試しに戦ってみたらまるで歯が立たず、いきなり全滅させられたんだっけ。それで後回しにしておいたけど、ボスを倒してエンディングを見たら、もうそのことはすっかり忘れていたのだった。言い換えれば、これはボスを倒したあとのお楽しみとして用意された、おまけ要素なのだ。

 当然、そんなものの攻略法など知るわけがない署長は、つい「明日教えてあげる」と言ってしまう。さあ、大変だ。

■シーン2

 翌日、派出所では両さんが驚きの声を上げる。署長から自宅への呼び出しがかかっていると知らされたからだ。何か署長を怒らせるようなことをしただろうか? 両さんには思い当たるフシが山ほどある。となると、その処分は謹慎か、減給か、はたまた免職か……。

 謝るなら早い方がいい、という中川のアドバイスを受け、途中の酒屋で買った日本酒を手土産に、両さんは屯田署長の自宅を目指す。

 到着してみると、署長は孫(赤ん坊)を背負って洗濯物を干しているところだった。しかし、手際が悪く洗濯物がうまく干せず、赤ん坊は泣き出し、別の孫にはライダーキックを喰らったりしている。署内での威厳ある姿とはちょっと違うようで、両さんも気分は複雑だ。

 家の中へ案内されるが、そこらじゅうにおもちゃが散乱し、孫たちが走り回っている。この様子だと、どうも署長は自分を叱るために呼びつけたのではないらしい。いったい何の用で呼ばれたのかと尋ねてみると、孫が夢中になっているゲームの解き方を教えてほしいのだという。

 こうなると、一気に立場を逆転させるのがいつもの両さんのやり方だ。教えを乞う署長に対して、ウイスキーでも飲んでノドのすべりを良くしたいなどと要求する。しかし、警察官の制服を着ている人間に酒を飲ませるわけにはいかない。そう署長が拒否すると、両さんはあっさりと背を向ける。

84巻/P76/7〜8コマ目
84巻/P76/7〜8コマ目

 攻略本まで買ったのに何が書いてあるのかさっぱりわからない! と訴える署長。それはごもっともな話である。攻略本は、そのゲームを遊んでいる人にとって必要な情報が満載されているが、そうでない人には「知らない場所の地図」や「意味不明な数字や記号」が書かれた本でしかない。“自分が何をわからないのかわからない人”には、攻略本はまるで役に立たない。そんな攻略本の本質を、署長のセリフは的確に表している。

 ちなみに、このコマで署長が手にしているのは、NTT出版の『ファイナルファンタジーV 冒険ガイドブック』のようだ。いくつか出ている『FFV』の攻略本の中では初心者向けなのだが、それでもチンプンカンプンなのだから、署長のゲーム音痴っぷりは筋金入りだ。

 優位な立場に立った両さんは、ウイスキーのつまみに生ハムだのサラミソーセージだのを要求する。ゲームの情報を小出しにしながら、図々しさに拍車をかけていく。

■シーン3

 どうにかこうにかオメガの倒し方を聞き出した署長は、ふたたび、さも自分の知識であるかのような態度で孫たちに伝授する。

84巻/P78/5コマ目
84巻/P78/5コマ目

 おじいちゃんを見つめる孫たちの瞳はきらきらと輝いている。もうこれであの子たちはゲームをクリアすることが出来るだろう。これで祖父への尊敬は確実なものとなった。となれば、もう両津に媚びへつらう必要はない……。署長は、テーブルに出していたウイスキーとつまみを、さっと引っ込め、「ウイスキーなど高級すぎて体を壊すぞ」「水でたくさんだろ!」と、両さんへの態度を豹変させる。

 ところが、ゲームはまだ終わっていなかった。

 ふたたび孫が顔を出し、「最後のジョブは何?」などと聞いてくる。当然、署長にはなんのことだかわからないが、何か重要な質問であろうことくらいはわかる。両さんは、ここぞとばかりに食い物を要求する。ラーメンはどうかという署長の提案を蹴って、特上寿司3人前とトロの刺身を所望。

 たらふく美味いものを(人のお金で)食べることができ、実に満足な両さんだったが、ここでちょっと悪知恵が顔をのぞかせる。「最後のジョブ」を教えるのはやぶさかではないが、すぐに解かれてしまったらまた立場が逆転する。それを少しでも引き延ばすために、メチャクチャを教えようというのだ。

84巻/P80/8コマ目
84巻/P80/8コマ目

『FF』シリーズを知っている人ならすぐにバレるような(知らなくたってバレるよね)アドバイスをして、時間を稼ぐ両さん。

 このあとも、何かと理由をつけてはウナギの蒲焼きなど食べ散らかし、両さんは束の間の幸せを味わうが、このままハッピーエンドで終わるはずはない。すでに『FFV』を解き終えたという孫の友達がやってきて、両さんの優位な立場は一気に白紙に戻されるのだった。

84巻/P82/5コマ目
84巻/P82/5コマ目

 家庭にゲームが入ってきた時代。謎が解けずに苦しむ子供たちと、子供の前で威厳を保ちたい親たち。どこの家庭でも起こったであろう出来事を、両津勘吉というキャラクターを狂言回しにして、見事な喜劇に仕立てあげたエピソードである。

第7回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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