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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第5回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第80巻収録
「発見!最強のバーコードの巻」

 今回取り上げられているゲームは、エポック社の「バーコードバトラー」だ。1958年に創業したエポック社は、第一号商品の「野球盤」を初めとして、「魚雷戦ゲーム」「パーフェクトボウリング」「パーフェクション」といったアナログゲームのヒット作を連発し、1975年には国産第一号となるテレビゲーム機の「テレビテニス」や「スーパーカセットビジョン」など、家庭用ゲーム機の歴史を作ってきたメーカーのひとつでもある。

 そんな「バーコードバトラー」を題材にして、はたして両さんはどんな遊びを見せてくれるのか。コミックス第80巻に収録されたエピソード、「発見!最強のバーコードの巻」をさっそく見ていこう。

■シーン1

 ある日の派出所内の風景。デスクの上には様々なお菓子やティッシュなど日用品の箱が散乱している。それらのパッケージは、ところどころがハサミで切り取られている。この様子を見た大原部長は、「両津のやつ、ベルマークでも集めてるのか?」と疑問を口にする。本人不在にもかかわらず、両津のやったことと決めつけているのが笑えるが、それはさておき、問題は何を切り抜いたか、である。

 その場に居合わせた中川は、両さんが集めているのは「バーコード」だと言う。商品パッケージに印刷されているバーコードを切り取り、専用のカードに貼り付ける。これをバーコードバトラーという機械で読み取ると、戦闘力や防御力といった数値に変換され、対戦ができるというものだ。

 読み取るのは、バーコードならなんでもよい。ゲームのために販売されている商品ではなく、世の中に流通している“バーコード付きの商品”なら、なんだってバトルに投入することができる。これは、子供たち(おもに男の子)にはたまらないだろう。何しろ熱いバトルの世界が、閉じられたゲームの中だけでなく、世界に開かれているのだから。

80巻/P86/6コマ目
80巻/P86/6コマ目

 子供たちは、誰よりも強いバーコードを求めてコンビニへ走る。しかし、人間の目で商品パッケージのバーコードを見たところで、どれが強いバーコードなのかは判別できない。仮に、バーコードの違いを見分けることができたとしても、バーコードバトラーがどういうロジックで戦闘力を導き出しているのかを知らなければ、どの商品が強いか弱いかの判断はできない。考えてみれば当たり前の話だ。

 ところが、両さんは近所の子供たちの間では「バーコードの両さん」として有名だという。さすがは遊びの達人、バーコードバトルの秘密も解き明かしてしまったのだろうか?

 残念ながらそうではない。中川が囁くように(小さな活字で)打ち明けているが、「強いバーコードを100円でコピーさせる商売」をしているというのだ。小遣いの限られている子供たちは、手当たり次第に商品を買うことはできない。ところが両さんはいちおう大人なので、お菓子や日用品くらいは自由に買える。それらのバーコードをバトラーで読み取り、強い数値を示したバーコドを有料でコピーさせているというわけだ。子供相手になんとアコギなことを……。

 と、派出所でそんな会話が繰り広げられているところに、外回りをしていた両さんが帰ってくる。「やっほっ」とやけに上機嫌だ。手には何やら新しいおもちゃの箱を持っている。

■シーン2

 両さんが買ってきたのは、新しいバーコードバトルのゲーム機だ。最新版だというその製品パッケージには、宇宙刑事を思わせるヒーローが銃をかまえたイラストと共に、「バーコードファイター」というタイトルが書かれている。

 両さん曰く「ガンタイプ」のバーコードゲームで、こちらはわざわざバーコードを商品パッケージから切り取って貼り付ける必要がない。2丁同梱されている銃がバーコードリーダーになっており、銃口を向けてダイレクトにバーコードを読み取ることができるのだ。

80巻/P87/5〜6コマ目
80巻/P87/5〜6コマ目

 ふたりで1丁ずつ銃を持つ。各自が好きな商品に銃口を当て、コンビの店員さんのようにバーコードを読み取る。そしてふたり向き合い、引き金を引いて勝負開始。撃たれた(負けた)ほうは銃が激しく震え、勝敗が判明するという仕組みだ。

 あまりにも見事なアイデアで、実際にこういう商品もあったのかと思って調べてみたのだが、ぼくの調べた限りでは同種の商品は見つからなかった。つまり、秋本治先生のアイデアだということになる。これには脱帽した。

 なぜなら、このエピソードが少年ジャンプ本誌に掲載された頃、ゲーム開発の仕事をしていたぼくは、あるメーカーからの依頼でバーコードバトルの新しい可能性を調査したことがあるからだ。もちろんエポック社のバーコードバトラーをお手本として研究し、これをどう発展させたらよりおもしろい遊びが作れるかを考えていった。

 いちおう、ある程度のアイデアをまとめて企画提案書として提出したが、結局、それが製品化されることはなかった。その理由は、ぼくのまとめた企画が製品化するには未熟なものだったからであり、すべては自分の能力不足でしかないわけだが、だからこそ、この秋本先生のアイデアには驚かされるのだ。

 だって、こっち(銃で読み取って撃ち合う)のほうが断然おもしろいもん!

 というわけで、中川と対決していきなり圧勝した両津に、横で見ていた麗子は「どのバーコードが強いか知ってるんでしょう」と疑いの目を向ける。しかし、さすがの両さんでも、すべてのバーコードを把握できるはずもなく、インチキは不可能だと主張する。この点では両さんが正しい。生まれながらの遊びの才能が、初戦の勝利を引き寄せてしまったのだろう。

 ところが、両さんの運の強さはここまで。このあと、おなじみの欲の深さがうっかり顔を覗かせてしまったがために、両さんはバーコード地獄の坂を転がり落ちていく。

■シーン3

 この時点で派出所内にいるのは、部長、麗子、中川、両津の4名。ちょうどお昼の時間ということで、食事の出前をとろうと麗子が提案する。それを聞いた両さん、中川とのバーコドファイトに勝って気を良くしたか、「お昼ごはんをみんなで賭けよう」などと、警察官にあるまじきことを口走る。

 インチキをされるに違いないと不安がる麗子だが、両さんが自信満々で読み取った雑誌のバーコードの数値は「攻撃力1/生命力0」という最悪なもの。それならなんだって勝てると、中川はそこらにあるティッシュの箱を読み取って、簡単に勝利する。これで両さん、まずは中川にお昼をおごらなければならなくなった。

 続いては麗子との対決。今度こそはと、両さんが読み取ったバーコードの数値は「攻撃力25000/生命力47000」。思いのほか大きな数値が得られて勝利を確信する。一方、麗子も今日買い物したばかりの商品のバーコードを読み込んで、ふたり同時に引き金を引く。その結果は!

80巻/P91/9〜10コマ目
80巻/P91/9〜10コマ目

 麗子の読み取ったデータは両さんを上回るもので、またまたお昼をおごらされることになる。彼女が選んだバーコードは、カルティエ(※王族御用達の名門宝飾品ブランド)のものだという。商品の属性とバーコードの数値に相関関係はないはずなのだが、両さんは焦りを隠せない。

 バーコードバトラーをやり込んでいたときの記憶を必死に掘り起こした両さんは、そういえば「サッポロ100番みそ味」というカップ麺が強かったことを思い出し、部長との勝負に出る。数値は「攻撃力39000/生命力25000」という悪くないものだ。

 部長はといえば、勝っても負けてもどちらでも良さげにバーコードを探している。すると、中川が手持ちのフェラーリの品質カードにもバーコードが印刷されていることに気がつく。ならば、それを貸してもらおうと、部長が銃口をあてる。読み取った数値は「攻撃力70000/生命力68000」という破格なものだった。

 カルティエにフェラーリと、高級品ばかり読み取りやがって「お前ら、きたないぞ!」とブチ切れる両さんの気持ちはよくわかるが、「品物と数値は無関係」だと言ったのは自分なのだから、どうしようもない。さらに、天然の中川がトドメの一言を投げかける。

80巻/P93/1コマ目目
80巻/P93/1コマ目

 ひたすら負けを繰り返し、今後一ヶ月間、3人に昼食をおごることになってしまった両さんは、バーコード修行に出かけると言い残して、派出所を飛び出していった。

■シーン4

 やって来たのは近所のコンビニ。そこで両さんは奇妙な人物と出会う。

80巻/P98/1コマ目
80巻/P98/1コマ目

 筋肉質の身体つきに、精悍な表情。頭髪はちょいと寂しいが、眼光は鋭い。店内でいろんな商品のバーコードをチェックしている両さんを見て、声をかけてきたのだ。

 着ているTシャツの胸に思い切り「バーコードマン」と書いてあるこの男、いきなり肉眼でバーコードの数値を読み取ってみせた。それどころか、このバーコードマンはバトル用の数値を読み取れるだけでなく、バーコードからそれがなんの商品かも判別でてしまう。たとえば手に取ったバーコードをじっと見て「ボムカレーみそ味 480円」と即答する。まるで、人間バーコードリーダーである。

80巻/P99/2コマ目
80巻/P99/2コマ目

 バーコードマンは、バーコードの下に書かれている数字から日本製品と外国製品の見分け方を解説すると、「日本製品は攻撃レベルが低い、外国製品が狙い目だ」と重要なアドバイスをくれる。では、具体的にどのような製品が強いのかと問えば、「1冊千円のこの本にくわしく出ておる」と自作の攻略ガイドを売りつけてきた。

 まんまと本を買わされた両さん、ガイドに従って外国製女性下着を売るブティックへ足を踏み入れるが、どう考えたって場違いだし、値札を見ればショーツひとつが7万8千円もする。それで店の裏のゴミ箱をあさり……というように、いつものドタバタへとなだれ込んでいくのだった。

 その世界の中で閉じているのが一般的なテレビゲームだが、バーコードでのバトルは遊びの材料(情報と言い換えてもよい)をゲームの外に求めていて、世界が開かれている。そこが最大の発明だった。

『バーコードバトラー』はテレビゲームではないこともあり、ゲームの歴史的にはあまり重要視されていないように思えるが、その後のテレビゲームに与えた影響はとても大きい。『バーコードバトラー』がなければ、のちの『モンスターファーム』('97)は生まれなかっただろうし、位置情報を駆使して世界中に遊びの場を広げた『ingress』や『ポケモンGO』にも、少なからず影響を与えていると思うのだ。

第6回へ続く

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