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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第3回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第73巻収録
「突撃!クレーンゲームの巻」

 今回は、テレビゲームとはちょっと違うが、同じくゲームセンターに欠かせないゲーム機ということで、クレーンゲームを取り上げたい。登場するのは、コミックス第73巻の表題作にもなっている「突撃!クレーンゲームの巻」というエピソードだ。

■シーン1

 亀有のどこかにあるゲームセンターの風景。入り口の前には、警ら用の自転車が停めてある。例によって、両さんがゲーセンでサボっているのだ。何をやっているかというと、今回はクレーンゲームである。

 両さんは、3個のぬいぐるみをいっぺんにつかみ上げる。湧き上がる歓声。見事ゲットしたぬいぐるみは、周囲で見ていた子供たちにあげてしまう。そう、彼はぬいぐるみが欲しくてクレーンゲームをやっているわけではない。あくまでも腕試しなのだ。欲張りな両さんではあるけれど、基本的には優しくて気前がいい。そんな両さんの性格をうまく描いた一場面だ。

 ところで、最初に両さんがやっていたクレーンゲーム機を見ると、マシン名のところには「CHINPIROSUPON(チンピロスポン)」などと書かれている。

73巻/P146/3コマ目
73巻/P146/3コマ目

 これは、当時「ビッグコミックスピリッツ」誌に連載され、単行本化もされた竹熊健太郎・相原コージのコンビによるヒット作『サルでも描けるマンガ教室』に登場したギャグを借りたものだろう(あちらは「ちんぴょろすぽ〜ん!」だったが)。いちおうここでは、秋本治先生が考えた架空のクレーンゲーム機、ということにしておこう。

 続いてもう1台、別のクレーンゲーム機も登場する。そちらには「ZEGA 円盤キャッチャー」と書かれている。言うまでもなく、SEGA(セガ)の『UFOキャッチャー』のパロディだ。

73巻/P147/1コマ目
73巻/P147/1コマ目

 ここで少し、クレーンゲーム機の歴史を説明しておこう。

 クレーンゲーム自体は、かなり昔からデパートの屋上やゲームコーナーに置かれていた。その頃、中に入っていた景品は、子供向けにはキャラメル、大人(男性)向けにはライターなどが主流だった。

 ところが、『スペースインベーダー』のヒットからテレビゲームのブームが巻き起こり、80年代に入ると全国各地に大型のゲームセンターが作られていった。それまで、ゲームをしに来るのは男の人が中心で、ときには不良の溜まり場などと言われることもあった。しかし、いくつかのメーカーは、ゲームセンターを健全な遊びの場にできないものかと、頭を悩ませていた。

 そこで、クレーンゲーム機を改良することで、ゲームセンターを若い女性でも安心して遊びに来ることのできる場にしようと考えたメーカーがあった。それがセガである。

 セガの『スペースクレーン』(1985年)は、まだ旧来のクレーンゲーム機で、ライターやミニカーといった男性向けの景品が透明カプセルに入れられている。クレーンの爪は、丸いカプセルをつかみやすいように3本ある(といっても、つかむのは容易ではなかったが)。

 翌年、これを改良して発表されたのが初代『UFOキャッチャー』(1986年)だ。ここで爪の数は、現在主流となった2本へと大胆に減らされる。当時のカタログを見ると、中に入っている景品はぬいぐるみの他にキャラメルもまだあるようだ。ぬいぐるみなら2本の爪でもつかみやすいと思うが、キャラメルは相当難しくなったのではないかと思われる。

 以後、『UFOキャッチャー』はマイナーチェンジを繰り返し、他のメーカーもそれに追随して、現在のクレーンゲーム機市場を形成していくのだった。

 さて、話をもどそう。

 子供たちに、ジャムパンマンのぬいぐるみを取れないか? と問われた両さんは、実演して見せながらぬいぐるみの取り方をレクチャーする。

 たとえば、埋もれているぬいぐるみでも鼻などのパーツが飛び出ていれば、そこにクレーンのツメを引っ掛けて取ることができる。また、ぬいぐるみをつかむときは、縦方向につかめば安定する。横方向では、たとえつかめても落ちる可能性が高い。さらに、ぬいぐるみは形状によって重心の位置が違うので、そこを見定めるのも重要だ。クレーンのつかむ力は弱いため、とにかくバランスが命なのだ、などなど。

 そう説明した通りに、両さんは、実際に2個のぬいぐるみを同時に取ってみせる。口先だけでなく、その実力はクレーンゲームの達人級なのだ。

 ……と、かっこよかったのはここまで。気がつけば、背後には大原部長が立っていた。

73巻/P149/1コマ目
73巻/P149/1コマ目

 ここで注目したいのは、部長の背後に並んでいるゲーム筐体だ。2台のアップライト筐体が見えるが、左のゲームはタイトルが『◯◯◯コング』となっているので、おそらく『ドンキーコング』。「アンコール雪之城の巻」では「コングゲーム」と呼ばれていたアレだ。右側には『トテリス』というパズルゲームがある。もちろん『テトリス』のパロディだ。

■シーン2

 部長に見つかり、派出所に連れ戻された両さん。神妙な顔をして部長の説教を聞いている。すると、そこへ麗子が登場。手には新聞広告を持っている。

「見て、すごいニュースよ」
「クレーンでダイヤなどつかみ取りですって」

 どうやら、地元の宝飾店が客寄せのために貴金属類のクレーンつかみ取りを実施するようだ。チラシを見ると、ルールは「1万円で3回チャレンジ」。景品には、20万円相当のダイヤも含まれているという。

 クレーンゲーム機の景品は、マンガやアニメの人気キャラクターをぬいぐるみ化したものが基本だが、なかには注目を集めるために一風変わったものを景品として入れている店もある。ぼくがこれまで見てきたうち、とくに印象的だったのは津田沼のゲーセンにあった伊勢エビだ。クレーンのケースが水槽になっており、活きた伊勢エビが泳いでいる。非力なクレーンで伊勢エビがつかめるとは思えないのだが(暴れるもんね)、もしも取れたとして、息子がいきなり伊勢エビなんか持って帰ってきたら、お母さんもどうしていいやら困惑することだろう。

 それはさておき、20万円のダイヤモンドが取れる(かもしれない)と知って、黙っていられる両さんではない。

「ちょっとまたパトロールへ……」とか、「おなかが急にいたくなった……」とか、あれこれ理由をつけて外出しようと企む。しまいにゃ「生活費を稼ぐチャンスなんです!」なんて泣き落としにかかるが、それで許してくれるほど甘い大原部長ではない。

 と、そのタイミングでちょうど勤務交替の時間になる。部長が許可を与える間もなく、脱兎のごとく派出所を飛び出していく両さんなのであった。

 そうして到着したのが、貴金属のつかみ取りをやっているという店「カメアリ・ダイヤモンド」だ。亀有にある店だから店名に「カメアリ」と付いているのは当たり前、と思うかもしれないが、これは、株式会社三貴がバブル期に販売していたダイヤモンドのブランド名「カメリアダイヤモンド」の“もじり”であるのは明らか。

73巻/P151/7コマ目
73巻/P151/7コマ目

 このように、『こち亀』という作品には街の風景、店名、人名、壁のポスターなど、あらゆるところにパロディが隠されており、それを探すのもまた楽しみ方のひとつと言える。

■シーン3

 カメアリ・ダイヤモンドに一番乗りした両さんは、いきなり20万円のダイヤに狙いをつけると、簡単につかみ上げる。と、ここで、あわてた店主がゲーム機に体当たり。ダイヤはポロっと落ちてしまう。姑息な妨害に腹を立てた両さんは、逆に闘志を燃え上がらせる。高価な景品から優先的につかんでいき、合計で158万円分も獲得してしまうのだった。

 普通のマンガなら、ここまででもずいぶん極端な展開だと言えるのだが、『こち亀』はこの程度では終わらない。意気揚々と派出所に帰ってきた両さんに、中川が「テレビ局の知り合いがクレーンゲームの特番をやると言ってましたよ」などと、余計な情報を吹き込んでしまう。

 さあ、両さんの目の色が変わった。テレビ番組ならば、景品もきっと豪華なものばかりに違いない。「ぜひ出してくれ!」と、強引に出演をねじ込む両さんであった。

 そして、本番当日。広いスタジオに入ってみると、フロアには「人間クレーン」という番組タイトルの看板が飾られている。その前には家電類や宝飾品、さらには自動車まで、いかにも高そうな景品がどっさり並んでいる。そして、天井から下がったワイヤーにはクレーンが……付いてない。

 もうおわかりですね。このワイヤーの先にぶら下がった出場者が、自力で景品をつかみ上げると言う趣向だ。

 エアコンを狙うも力足らず落としてしまう選手。ビデオカメラにCDラジカセにアレもコレもと欲張っているうちに時間切れになる選手。かと思えば、軽自動車を引きずって獲得してしまう力自慢の選手もいる。

 たいへんな熱戦が繰り広げられるなか、最後に登場した我らが両津選手は、どういう戦略でいくのか? まずは手堅く宝石類から……なんてことを考えるはずがない。いきなり手を出したのは、自動車エリアの目玉商品であるポルシェだ! あまりにも無謀なチャレンジだが、両さんは「R・R(リアエンジン・リアドライブ)だから前部は意外に軽いはず」などと言って強引に持ち上げる。

73巻/P163/1コマ目
73巻/P163/1コマ目

 それどころかゴールへ向かう道すがらにも、ポルシェは歯でくわえて、空いた両手では貴金属や電化製品を持てるだけ持ってゴールインしてしまうのだ。結局、獲得した景品は合計で1,672万円! いつもなら、ここでどんでん返しがあって全部失ったりするのだが、どうしたわけかこのままハッピーエンド。『こち亀』では、なかなか珍しいパターンではないだろうか。

第4回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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