ファミ熱!!プロジェクト

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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第2回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第30巻収録「さぼりゲームの巻」

 次にゲームが登場するのは、第30巻に収録された「さぼりゲームの巻」だ。このエピソードが少年ジャンプ本誌に掲載されたのは1982年の27号。タイミング的には、ナムコ社が『パックマン』('80)、『ギャラガ』('81)、『ディグダグ』('82)と立て続けにヒット作を連発して、ゲームファンたちを熱狂させていた時期だ。

 タイトルを見ただけで、このエピソードは「きっと両さんが仕事をさぼってゲームセンターにでも行くんだろうな……」ということが予想される。大原部長でなくとも「あいつのやりそうなことはだいたい読める」である。

■シーン1

 まずは冒頭、派出所に上司の大原部長がやってくる。「両津はどこへいったかしらんか?」という部長の問いに、中川は、駅前のゲームセンターだろうと答える。「最近パチンコを卒業して、TVゲームにかえたと、いってましたから…」と、読者の予想は的中する。

 ここで注目したいのは、中川のセリフにある「パチンコを卒業して」という言葉だ。

30巻/P120/1コマ目
30巻/P120/1コマ目

『スペースインベーダー』の大ヒットからテレビゲームのブームが起こり、全国各地にゲームセンターが作られていった。それまで、大人が暇つぶしで入り浸るのはパチンコ屋、というのが相場だったが、この時期からそれがゲームセンターにとって代わられる。それは両さんも例外でなく、仕事さぼりの逃げ込み場所が、パチンコ屋からゲームセンターに変わったのだ。

 ぼくがテレビゲームと出会ったのは高校時代。亀有の隣町である金町というところにある高校に通っていたのだが、学校の行事で水元公園へ行ったら、その休憩所に『スペースインベーダー』のテーブル筐体があった。ゲームセンターでもデパートの屋上でもなく、公園の休憩場にインベーダー。そんなところにまでゲーム機が置かれるほどのブームだったというわけだ。

 それはともかく、ぼくが通っていた高校はワルい奴の多いところで、そういう連中は授業をサボっては雀荘やパチンコ屋に入り浸っていた(高校生のくせに!)。そんな彼らも、インベーダーブームのときはパチンコ屋でなく、ゲームセンターに集まっていた。「ゲームセンターは不良の集まるところ」というのは、ぼくの周辺に関しては本当のことだった。そして両さんも“不良警官”である。

■シーン2

 部長から命じられ、両さんを連れ戻しに行く中川。向かうのは駅前のゲームセンター。店の看板には「KAMEARI GAME 50」とある。この「50」というのは、ゲーム料金のことを意味している。入り口のガラス戸には「コーヒー付き50円!!」という張り紙も見える。

30巻/P121/1コマ目
30巻/P121/1コマ目

 当時、ゲームの代金は新製品なら1回100円。ところが、少し古くなったゲームは半額の50円でプレイさせてくれる店が多かった。なかにはこの店のように、全台どれでも50円でプレイ可能にしていたり、ドリンクを無料で提供してくれる店もあった。それくらいサービスを良くしないと他店との競争に勝てないほど、ゲームセンターが乱立していた時代だったのだ。

 ゲームセンターのサービスで忘れられないのは、無料ハンバーガーだ。当時、ぼくは松戸駅前のゲームセンターに通いつめていたが、そこで『ギャラクシアン』か何かを遊んでいたら、突然テーブルの上にハンバーガーが置かれた。顔を上げると、見慣れた店長が「食べて」とひと言。両手には、ハンバーガーが山ほど入った紙袋を提げている。そのとき店にいたお客さん全員に、ハンバーガーを振る舞ってくれたのだ。

 ブームの全盛期には、じゃんじゃん投入される100円玉で筐体の料金ボックスが詰まって開かなくなったとか、回収した売り上げを運搬するトラックのサスペンションが100円玉の重みに耐えかねて故障したとか、様々なエピソードを耳にした。市場から100円玉が払底したためか、造幣局は『スペースインベーダー』の人気を受けて、それまで3億枚前後だった100円玉の製造枚数を、1980年には5億8千万枚に増強している。

 さて、このシーンでもうひとつ注目したいのは、入り口の脇にある「24時間」という表示だ。そう、昔のゲームセンターは、オールナイトで営業しているところがけっこうあった。そのため、終電を逃したサラリーマンが、テーブル筐体で居眠りしながら始発が動くのを待っていたりしたものだ。その後、ゲームセンターは1985年に風営法が改正されたことにより、営業時間が規制されて24時間営業はできなくなった。

■シーン3

 中川がゲームセンターの店内に入ってみると、予想的中、両さんがゲームに興じていた。遊んでいるのは登場したばかりの『ディグダグ』。子供たちのギャラリーに囲まれて、店のハイスコアを更新している。壁にはハイスコアランキングを書いたホワイトボードが掛けられ、「両津氏」の名前がある。

 他に、「富沢氏」「うすね氏」といった名前も見える。これは、当時、秋本治先生のアシストタントをされていた、とみさわ千夏先生、うすね正俊先生の名前を冗談で書いておいたものだろう。あるいは、本当に仕事の合間にスタッフみんなでゲームセンターに行って、スコアを競い合っていたのかも……などと想像してみるのも楽しい。

30巻/P122/2コマ目
30巻/P122/2コマ目

 両さんは中川に連れられ、渋々ゲームセンターを出る。ところがまっすぐ帰ろうとせず、すぐにまた途中のゲームセンターに入ってしまう。これではいつまでたっても帰れないと思った中川は、タクシーを呼び停めることにする。タイミングよく通りかかった個人タクシーは、なんと8ドアの長〜いリムジンで、運転手はなぜか交通係の前田だった。

 前田は別名「ホットロッドの前田」と呼ばれるほどの自動車改造のマニアで、アメリカ車の大ファン。休み中は趣味と実益を兼ねて、タクシー運転手のアルバイトをしている。現職の警官がアルバイトをするなんてとんでもない! と言いたいところだが、『こち亀』ワールドでそんなことを言うのはナンセンスというもの。

 ともかく、この車で両さんを派出所まで連れ戻すことにした中川だったが、両さんの計略に引っかかり、派出所の前まで来たところで中川だけドアから放り出されてしまう。猛スピードで走り去る両さんと前田。

■シーン4

 毎度のことながら、両さんのデタラメな行動にブチ切れた大原部長は、追跡のためのパトカーを手配する。そこからリムジンとパトカーのチェイスがはじまるのだが、この様子がまたおもしろい。

30巻/P132/1コマ目
30巻/P132/1コマ目

 迷路のような道で追いかけっこをし、急に直角に曲がり、細い路地に逃げ込む。あるいは引き返してやり過ごし、それをパトカーが追いかけてゆく。その光景はまるで『ラリーX』のようでもあり、また『パックマン』のようでもある。

 やがて、両さんたちの車は、工事現場で落ちて来た鉄板にうしろ半分を切断されてしまう。万事休す。しかし、カーマニアの前田は慌てることなく、「FF車(前輪駆動)だから前だけあれば走ることは走る」などと言って、さらに逃走を続ける。しまいには大型トラックに跳ね飛ばされ、その衝撃で後部の切断面がいっそう擦り減るなどして、車はさらに短くなっていく。

30巻/P136/3コマ目
30巻/P136/3コマ目

 テレビゲームに詳しい人なら、この場面から『センチピード」を連想するかもしれない。アタリ社が全盛期に発表したこの作品は、長く連なったムカデ状の生物を狙って射撃するシューティングゲームだ。ムカデは被弾するたびに一粒ずつ短くなっていき、最後には頭だけで走り回る。まさに、運転席だけでも逃げ回る前田と両さんのようである。

 そんな二人の逃避行は、最後にどこかの山奥にたどり着いて終わる。車はもはや残骸のようだが、前田はまだあきらめず、「帆をつければまだまだ走る!」などと息巻いている。結局、この両さんのさぼり行為そのものが、まるでゲームのようだったというオチだ。

第3回へ続く

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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