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こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

第1回

※文:とみさわ昭仁

コミックス第15巻収録「私設警察!の巻」

 初めて『こち亀』を読んだ日のことはよく覚えている。まだ中学生、15歳のときだった。親戚の不幸で福島の田舎に帰るとき、途中駅の売店で少年ジャンプを買ってもらった。母の実家で、葬儀の合間に読んだそのジャンプに『こち亀』の新連載第1回が掲載されていた。

 第1回が掲載されたのは1976年の9月21日発売号。この年は、米国アタリ社が『ブレイクアウト』を発表した年だ。日本では『ブロックくずし』という名で親しまれた。
 コンピュータを利用したゲームはそれ以前から存在していたが、広く一般に知られるようになったのは、この『ブロックくずし』からだと言ってもいい。つまり、テレビゲームの歴史と『こち亀』の歴史は、ほぼ同時に始まったとも言えるのだ。

 とはいえ、まだそれほど世間一般での馴染みは薄かったためか、 『こち亀』にテレビゲームが登場するのはずっとあとになってからのことだ。あらゆるホビーに精通し、流行にはすぐに飛びつく両さんのことだから、タイトー社の『スペースインベーダー』が大ブームを巻き起こした1978年の後半くらい(コミックスで言えば11巻から12巻くらい)にはテレビゲームが登場するかと思ったが、実際に登場するのは、もう少しあとになってからだった。

 初めて『こち亀』の作品中にゲームが登場するのは、コミックス15巻に収録された「私設警察!の巻」だ。このエピソードが少年ジャンプ本誌に掲載されたのは1979年の29号。季節としては夏頃だろうか。

■シーン1

 同僚の寺井が帰省のみやげに買ってきた羊羹の配分を巡って、大原部長と大ゲンカをする両津。売り言葉に買い言葉で「警察なんて今日かぎりでやめてやる!」と派出所を飛び出してしまう。しかし、町に出たはいいけれど、腹は減ってくる。職を失ってはメシだって満足に食べられない。で、そうなることを見越していたのか、両津はちゃっかり関係ない中川も連れてきている。

「お金ならありますよ、食べに行きましょうか」と、ダメな先輩に優しい言葉をかける中川。そんな二人が入っていったのは、「コーヒーハウス」という名前のどこにでもありそうな喫茶店だ。そして、その店内にはインベーダーゲームのテーブル筐体がある。

15巻/P112/3〜5コマ
15巻/P112/3〜5コマ

 この絵にもあるように、テーブル筐体というのはガラステーブルの中にブラウン管(まだ液晶モニターなんてない時代ですから!)とゲーム基板を仕込んだもので、喫茶店で使用できるように開発されたものだが、デパートの休憩所などにも置かれていた。

 テーブルの上には、両さんが食べたと思しきスパゲティ皿と、ドリンクのコップが置かれている。店としては、飲食の売り上げも大事だが、そのついでにゲーム料金としてガンガン100円玉を入れてくれるのだから、非常にありがたい存在だったに違いない。

 両さんはこれまでにもインベーダーゲームをやり込んでいたのか、一定の法則で出てくるUFOを見事に撃ち落とす様子なども描写されている。

 と、ここまでのくだりで「インベーダーゲーム」と表記していたのにはワケがある。それは、コピー品の存在だ。

 オリジナルの『スペースインベーダー』が社会現象と言えるほどの大ブームになったため、需要に供給が追いつかなくなった。そこに入り込んできたのが、『スペースインベーダー』をそっくり真似て作られたコピー品たちである。
 それらは『スペースフィーバー』『スペースアタック』『ゴールデンインベーダー』『インビンコ』など、様々なタイトルで流通したが、そんな名前を正確に理解しているのは一部のマニアだけで、一般的には全部まとめて「インベーダーゲーム」と呼ばれていた。

 このエピソードに登場するゲームが、タイトーの『スペースインベーダー』かどうかは、描かれている絵からは判別できそうもない。画面下部にあるトーチカの数が、最初のコマでは3つしかないのに、後のコマでは4つになったりしているからだ(※『スペースインベーダー』は4つ)。それでも、並んでいるインベーダー4種の形状の違いがちゃんと描き分けられていることに感心させられる。いまでこそ、パソコンを使えばゲーム画面を漫画の中に登場させるのは容易くできるようになったが、この当時は、ペンと墨でチマチマと描くしかなかったわけで、作画スタッフの苦労がうかがえる。

■シーン2

 警察を辞めて飛び出してきた、という普通に考えたら非常に深刻な事態であるにもかかわらず、ひたすらゲームに興じる両さん。当然、お金は持っていないので「もう100円貸してくれよ」と中川にせびる。しまいには「今度はお前もやってみるか?」と言うのだが、その相手は中川……ではなくて、やはり派出所から連れ出してきた犬だ。

15巻/P113/5コマ目
15巻/P113/5コマ目

『こち亀』ファンならご存知の通り、この犬は近所の子供たちが拾ってきた野良犬で、いつのまにか派出所で飼われることになった。案外と賢い犬なのだが、両さんにとっては子分のようなもので、たびたびオモチャにされている。この家出(?)騒ぎにも引きずり込まれ、どうしたわけか『スペースインベーダー』までやらされる羽目になっているのが、いかにも『こち亀』らしくておかしい。

 そして「なんだ!? 600点かよ、だらしねえな!」などと両さんのセリフでさらりと書かれているので見逃しそうになるが、よく考えたら犬が『スペースインベーダー』で600点獲るって、すごいことだよな。やっぱりこの犬(名前はない)は賢い。

 というわけで、本エピソードにテレビゲームが登場するのはここまで。このあと両さんは中川の資金で私設警察を作ることを思いつき、部長に対抗心を燃え上がらせるという、いつもの展開になっていくのだった。

コミックス第28巻収録「アンコール雪之城の巻」

 テレビゲームが初登場した「私設警察!の巻」から、またしばらく『こち亀』からゲームは鳴りを潜め、久しぶりに登場するのはコミックス28巻に収録されている「アンコール雪之城の巻」だった。こちらは1982年の新年号に掲載されたものなので、前回からは実に3年も経っている。

■シーン3

 いつものように中川がスーパーカーで派出所に出勤すると、室内では両さんがゲームをやっている。スマホはおろか、ファミコンもない時代。何でゲームをしているのかというと、なんとテーブル筐体である。

 驚いて「先輩、何やってるんですか」と問う中川に対して、くわえ煙草の両さんは「見りゃわかるだろ、コングゲームだ」と平然と答える。『こち亀』では実在の玩具や製品、人名などがどんどん登場するのが特徴のひとつだが、この頃はまだ遠慮があったのかもしれない。
「コングゲーム」だと言われたそれは、画面を見ると明らかに任天堂の『ドンキーコング』である。アーケード版の発売が1981年なので、時期的にも合っている。

28巻/P45/1コマ目
28巻/P45/1コマ目

 このあと、両さんはさらに中川を驚かせるセリフを吐く。「その機械、ゲームセンターから借りてきたんですか、まったくもう……」とつぶやく中川に対して、両さんは、さも当たり前な様子で「いや買った!」とひと言。このセリフ、中川じゃなくても当時の読者は誰もが驚いたことだろう。そう、テレビゲームの筐体というのは、お金さえ出せば買えるのだ。

 いまでこそ、テーブル筐体を持っているマニアは多い。中古で探せば、安くて2〜3万円から手に入る。ゲーム基板も安いものは数千円からあるが、レアなゲームはそれなりのプレミア価格がついている。現代のマニアは、あくまでもコレクションとしてゲーム基板(とそれを遊ぶための筐体)を買うのだが、両さんは違う。

 なんと、「テレビゲームのプロになる」のだと言う。その特訓のために、両さんはもらったばかりのボーナスを全額つぎ込んで、新品の筐体を買ってしまったのだ。1982年の時点でのこんな発言は、中川でなくとも呆れてしまうところだが、しかし、考えてみれば随分と時代を先取りしていたとも言える。

 いまはテレビゲームをスポーツと同じような競技と捉えて、スコアを競い合う大会が開かれることが増えてきている。それで賞金を稼いだり、スポンサーが付いたりする、つまりは“プロゲーマー”と言える人物が実際に誕生しているのだ。両さんのアイデアは、まったくの夢物語ではなかったのだ。

■シーン4

 ところで、本エピソードのタイトルになぜ「アンコール」と付いているのかと言えば、実はこれの前のエピソード「新雪之城変化!?の巻」の続編だからなのだ。

 雪之城とは、新たに配属されてきた刑事である。その姿は容姿端麗でファッショナブル。とても秋本治先生の漫画の登場人物とは思えない(少なくとも、初期には中川以外にこんなスタイルのいいキャラはいなかった)。

 ちなみに、字は少し違うが、かつて何度も映画化や舞台化された『雪之丞変化』という作品がある。主演の雪之丞を演じてきたのは長谷川一夫、東千代之介、美輪明宏といった端正な顔立ちと妖艶な魅力を持つ役者ばかりだ。これにヒントを得て、雪之城刑事が創造されたことは間違いないだろう。

 さて、その雪之城。その優雅な見た目に反して、かなり極端な性格の持ち主で、感情の起伏が非常に激しい。とくにタバコをことのほか憎んでおり、両さんがうっかり雪之城の前でタバコをくわえようものなら表情が一変し、銃を乱射するという有様だ。

 そして前回エピソードも雪之城のいきなりの激昂が派出所をシッチャカメッチャカにして終わるのだが、今回はどうなるのか?

28巻/P45/1コマ目
28巻/P45/1コマ目

 そう、ここまで読んでいればだいたい予想がついたと思うが、せっかくボーナスをはたいて買った両さんのテーブル筐体が、哀れ蜂の巣にされてしまうのだった。

(次回は12月7日更新です)

こちゲー 〜こち亀とゲーム〜

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