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古川柳男色事情走書    南 ツカサ

其の五十五:もてないという事

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  もてる・もてないということで言えば、もてる人生の方が断然楽しそうです。町を歩けば熱い視線をあちらこちらから向けられ、ちょっと流し目をすれば美少年たちが自ら身を任せてくる。色街に遊びに行けば、陰間たちが我も我もと指名されたがる……ですが、その逆は? 今回はもてない方の男の句を見ていきましょう。

思ひ内にあれば前が高くなり

  片思いの句ですね。胸の内に密かに想う青年がいても、自分から声をかけることなどできません。よしんば、声をかけてもふられるのがわかっているのでしょう。自覚あるもてない男とも言えます。だけど、身体は正直ですね。想い人とのあれやこれやを想像すると、男根は知らずに勃起してきます。しかし、その昂りは自分で慰めるしかないのです。

もてぬ奴へのこと腹を立てるなり

  陰間茶屋での出来事と考えてもらえればいいでしょう。そもそも芳町に足を向けた時点でやる気満々なのです。茶屋に入り、お気に入りの子を指名した時には相当興奮状態になっていることでしょう。けれど、その肝心の陰間は一向に自分の座敷に来ません。陰間は他のお客の座敷で盛り上がっているのです。陰間だって自分の好みのお客と肌を合わせる方が気持ち良いに決まっています。もしかすると「この後、いやなお客の相手をしないといけないんです」などと、好みのお客相手にこぼしているかもしれませんね。かくして、もてない男は屹立した男根とともに腹を立てながら、切ない一夜を悶々と過ごすのです。

持てぬ奴触らぬ体で触るなり

  やけっぱちになった句ですね。やってることは完全に痴漢なのですが、正面から口説いてもふられるのなら、せめて少しだけでも想い人の身体に触れたいという心情からでしょうか。しかし、触っていない振りをしながら、というところがセコイですね。相手が拒絶して大声を上げても「俺は触っていない」と言い訳できるように用心しているのでしょう。これがもてる男なら、相手もその気を触発されて反応してくるはずですから、もてない男はいじましい行為だけで満足するしかないのです。触られている方も、冷たく無視しておけばそれ以上踏み込んでこないと舐めていることでしょう。

  もてないということは、切ない人生でもあります。好き好んでもてないように生まれたわけではないのに……と同情してあげたい余地もありそうですが、最後の句などを見ると「そんなことをしているからもてないんだよ」とも言いたくなります。痴漢は犯罪です。せいぜい、冒頭の句のように勃起するくらいで留めておくのが無難ですよね。もてない男に必要なのは「謙虚さ」かもしれません。

コラム「古川柳男色事情走書」著者プロフィール
南 ツカサ(みなみ・つかさ)  Twitter

古川柳愛好家。川柳雑誌「現代川柳」所属。

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